7.揺れ動く心
7.揺れ動く心
放課後、陽翔は帰り支度をしながら、ちらりと由愛のほうを見た。
彼女は一人で静かに鞄を整理している。
(……なんだろう、昨日までは気にもしなかったのに)
一度意識し始めると、目で追ってしまう。
それが自分の中で少しずつ確信に変わっていくのを感じた。
(俺、もしかして橘のこと——)
——いや、考えすぎだろ。
自分の思考を否定するように、陽翔は頭を軽く振る。
まだ何も始まっていない。
ただ、少し気になるだけ。
それ以上でも、それ以下でもない——はずだ。
「藤崎くん?」
「え?」
不意に名前を呼ばれ、陽翔は慌てて由愛を見る。
彼女はじっとこちらを見つめていた。
「さっきから、何か考え込んでるみたいだけど……大丈夫?」
「え、ああ……いや、ちょっとボーッとしてただけ」
「……ふーん」
由愛はどこか疑わしげに目を細めた。
それが妙にドキリとする。
(やばい、考えを読まれてるみたいだ……)
由愛は相変わらずクールに見えるけれど、こうして会話を重ねるうちに、少しずつ彼女の表情の変化がわかるようになってきた。
たとえば、今の「ふーん」という言葉。
これは、ほんの少しだけ興味を持たれている証拠——な気がする。
「……ねえ、藤崎くん」
「ん?」
「これから、少し付き合ってくれない?」
「え?」
突然の申し出に、陽翔は思わず聞き返した。
「付き合うって……どこに?」
「駅前のカフェ。ちょっと寄りたいんだけど、一人だと入りにくくて」
「……なるほど」
意外な提案だった。
クールなイメージの由愛が、カフェに入りにくいと感じるとは思わなかった。
(……もしかして、こういうところも彼女の意外な一面なのか?)
「別にいいけど……なんで俺?」
「うーん……なんとなく?」
「なんとなくって……」
適当な理由に聞こえるけど、彼女がわざわざ誰かを誘うのは珍しい気がする。
それが自分だということに、ほんの少しだけ嬉しさを感じてしまった。
(……あれ? 俺、やっぱり意識しすぎか?)
そう思いながらも、陽翔は「まあ、いいか」と鞄を肩にかけた。
「わかった。じゃあ、行くか」
「うん」
由愛は軽く頷き、歩き出した。
その後ろ姿を追いながら、陽翔は自分の気持ちを整理しようとする。
——だけど、整理すればするほど、余計に彼女のことを考えてしまう。
気づけば、胸の奥が少しだけ熱を帯びていた。
それが何を意味するのか、陽翔自身、まだよくわかっていなかった。