77.特別な場所へ
77.特別な場所へ
駅前の商店街を抜け、少し人通りの少ない道を歩く。
「……もうすぐ着くよ」
由愛は楽しそうに微笑みながら先を歩いていた。
「だから、どこだって……」
「ほら、あそこ」
彼女が指さしたのは、小さな雑貨屋だった。
木の扉と温かみのある照明が特徴的で、外からでも可愛らしい雑貨が並んでいるのが見える。
「雑貨屋?」
「うん。前から気になってたんだけど、一人で入るのはちょっと恥ずかしくて」
「そんなもんか?」
「陽翔くんと一緒なら、気楽かなって思ったの」
そう言って、由愛は照れくさそうに笑う。
(……またそうやって簡単に俺を意識させることを言う)
名前で呼ぶことも、さりげない気遣いも、由愛にとっては自然なことなのかもしれない。
だけど、陽翔にとってはその一つ一つが心を揺らすものだった。
「じゃ、入ろっか」
「あ、ああ」
扉を開けると、店内には優しい木の香りが漂っていた。
可愛らしいアクセサリーや、手作りの雑貨が並び、どこか落ち着く雰囲気がある。
「わぁ……やっぱり素敵」
由愛は目を輝かせながら、棚のひとつひとつを丁寧に見て回っている。
そんな彼女の姿を見て、陽翔はふと考える。
(こういう時間、悪くないな……)
何気ない放課後。
だけど、こうして二人で過ごしていることが、なんだか特別なことのように思えた。
「陽翔くん、これ見て」
「ん?」
由愛が手に取ったのは、小さなペアのストラップだった。
お揃いのデザインで、それぞれに違う色の石がついている。
「……買おうかな」
由愛が小さく呟く。
「いいんじゃねぇか?」
「でも……こういうの、二つ買うのが普通だよね」
そう言って、ちらりと陽翔を見る。
「……え?」
「一緒に買わない?」
予想外の言葉に、陽翔の心臓が跳ねた。
「お、お揃いってことか?」
「ダメ?」
「……いや、別に」
由愛は微笑むと、二つのストラップをレジへ持って行った。
陽翔は、それをただ黙って見つめることしかできなかった——。




