76.放課後の約束
76.放課後の約束
放課後のチャイムが鳴り、教室がざわめき始める。
陽翔は机の上でぼんやりと視線を落としながら、昼休みの由愛の言葉を思い出していた。
『今日、放課後ちょっと付き合ってくれる?』
行きたいところがある、と言っていたけど、具体的にどこなのかは聞いていない。
単なる買い物なのか、それとも……。
(いや、深く考えすぎだろ)
いつものように自然に誘っただけのはずだ。
だけど、名前を呼び合うようになってから、どうしても些細なことでも意識してしまう。
「陽翔くん、行こ?」
気がつくと、由愛が教室の入り口で待っていた。
「あ、ああ」
鞄を肩にかけ、急いで由愛の隣に並ぶ。
教室を出た瞬間、何人かのクラスメイトがこちらを見てヒソヒソと話しているのが聞こえた。
(……またか)
もともと由愛は目立つ存在だし、最近一緒にいることが多くなったから、周りの目が気になるのも仕方ない。
「……気にしないでいいよ」
由愛が小さく囁くように言う。
「え?」
「噂されるの、慣れてるから」
そう言って、彼女は何事もないように歩き出した。
(慣れてる……か)
由愛にとっては、こういう状況は日常なのかもしれない。
でも、陽翔はどうしても意識してしまう。
特に——由愛が「他の誰でもなく、自分を選んで隣にいる」という事実が。
「で、どこ行くんだ?」
「ふふ、それは着いてからのお楽しみ」
意味深な笑みを浮かべながら、由愛は先を歩く。
陽翔は軽くため息をつきながらも、その後ろ姿を追いかけた——。




