75.意識しすぎて
75.意識しすぎて
昼食を終えた後も、屋上には穏やかな空気が流れていた。
由愛はフェンスにもたれかかりながら、気持ちよさそうに風を感じている。
「ふぅ……やっぱり、屋上って落ち着くね」
「まあな」
陽翔も適当に返事をしながら、何気なく由愛の横顔を盗み見た。
(……近い)
少し風が吹くたびに、彼女の髪が揺れ、陽翔の肩にかかりそうになる。
昼間の明るい日差しの中で見る由愛は、いつもよりも柔らかい雰囲気をまとっている気がした。
(……ダメだ。なんか、変に意識しちまう)
今朝の登校もそうだった。
周りの視線が気になったのもあるが、それ以上に、隣にいる由愛の存在が以前よりも大きく感じる。
『陽翔くん』
名前で呼ばれたあの瞬間が、まだ頭の中でリピートされている。
それに——さっきの弁当の交換だって。
(……あんなの、普通の友達同士でもやるだろ)
そう思おうとしても、どうしても心が落ち着かない。
「陽翔くん?」
「っ! な、なんだ?」
不意に由愛が覗き込んできて、陽翔は軽く肩を跳ねさせた。
「なんか考え事してた?」
「べ、別に。何も考えてねぇよ」
「ふぅん?」
じっとこちらを見つめたあと、由愛はくすっと笑った。
「……陽翔くんってさ、すごく分かりやすいよね」
「は?」
「ちょっと考えすぎると、顔に出てる」
「そ、そんなことねぇよ!」
「ふふっ、そういうとこ」
小さく微笑む由愛の表情に、陽翔の心臓がまた跳ねる。
(……くそ、やっぱ意識しちまう)
焦る気持ちを誤魔化すように、陽翔はそっぽを向いた。
由愛はそんな様子を見ながら、楽しそうに小さく息をついた。
「——ねえ、陽翔くん」
「ん?」
「今日、放課後ちょっと付き合ってくれる?」
「え?」
突然の誘いに、陽翔は思わず由愛を見た。
「ちょっと行きたいところがあるんだ。一緒に行こう?」
「……まあ、別にいいけど」
「やった、決まりね」
そう言って、由愛はまた微笑んだ。
その笑顔に、陽翔は胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた——。




