72.「いつも通り」じゃない
72.「いつも通り」じゃない
学校に着くと、クラスメイトたちの視線がやけに気になる。
(……いや、別に俺たち、普通に来ただけだよな?)
けれど、由愛と並んで登校するなんて今までなかったことだ。
自然にしているつもりでも、無意識に周囲の反応を気にしてしまう。
「おはよう、由愛ちゃん!」
「おはよ、橘!」
クラスの女子たちが由愛に話しかける。
いつもの光景。だが、ほんの少しだけ違って見えた。
「おはよう」
由愛が微笑む。
その瞬間、少しだけホッとする自分がいた。
「藤崎、お前もおはよう」
「……あ、ああ。おはよう」
友人の浅倉に声をかけられ、軽く挨拶を返す。
「お前、今朝は橘と一緒に来てたよな?」
「えっ……」
浅倉の言葉に、近くにいた数人の男子が反応する。
「マジ? てか、最近お前ら仲良くね?」
「いや、別に……たまたまだよ」
「ふーん?」
ニヤニヤしながら探るような視線が飛んでくる。
無理に誤魔化すと余計に怪しまれると思い、陽翔は話を打ち切るように椅子に座った。
(……なんだこれ)
意識しないようにすればするほど、どうにも落ち着かない。
今までは何ともなかったことが、やけに気になってしまう。
由愛とは、昨日あんなに近づいたのに。
たった一晩経っただけで、学校では距離が遠く感じる——。
そんなことを考えていたら、ふと視線を感じた。
顔を上げると、由愛がこちらをじっと見つめていた。
(……え?)
彼女は、小さく首を傾げる。
(な、なんだよ……)
その仕草が、妙に可愛くて目を逸らした。
これまで通りのはずなのに、どうしても「いつも通り」には戻れない。
——だけど、それは悪いことじゃないのかもしれない。




