71.特別な朝
71.特別な朝
翌朝。
陽翔は学校へ向かう道を歩きながら、昨夜のことを思い返していた。
(……俺、由愛と両想いになったんだよな)
言葉にすると、なんだかむずがゆい。
けれど、心の奥底からじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
今まで通りの関係のようで、確実に違う。
手を繋いだあの瞬間——確かに、二人の関係は変わった。
「おはよう、陽翔くん」
ふと、後ろから柔らかい声が聞こえた。
振り返ると、そこには制服姿の由愛が立っていた。
「由愛……?」
いつもは学校で会うのが普通だったのに、今日は家の近くで待ち伏せされていたような形になっている。
「えっと……なんでここに?」
「たまには一緒に登校しようかなって思って」
由愛は微笑む。
その笑顔が、あまりにも自然で、まるで今までもこうして一緒に登校していたかのように思えてしまう。
「……そっか」
「ダメ?」
「いや、ダメってわけじゃないけど……」
不思議な感じだった。
由愛がこうして積極的に自分のそばに来ることが、まだ慣れない。
(でも、悪くない……かも)
隣を歩く由愛の横顔をちらりと盗み見る。
朝の光に照らされたその姿は、どこか新鮮で、胸の奥がふわっと温かくなる。
——これはもう、「ただのクラスメイト」じゃないんだ。
そう実感すると、余計に意識してしまい、自然と目を逸らした。
「陽翔くん?」
「な、なんでもない」
「ふーん……?」
由愛は少しだけ考え込むような仕草をした後、ふっと笑った。
「じゃあ、行こっか」
「お、おう」
並んで歩き出す。
昨日までとは違う距離感。
だけど、それを「特別」と言葉にするのはまだ恥ずかしくて——。
それでも、並んで歩く朝は、どこまでも心地よかった。




