69.届く想い
69.届く想い
陽翔は由愛の瞳をまっすぐに見つめた。
胸が締めつけられるように緊張するが、もう逃げるつもりはなかった。
「……由愛。俺、お前に聞きたいことがある」
由愛は少し驚いたように瞬きをした。
「聞きたいこと?」
「ああ……今日、浅倉と会ってたよな」
その言葉に、由愛の表情がわずかに強張る。
「……見てたの?」
「……偶然な」
誤解されたくはなかった。
けれど、それ以上に、彼女の答えが知りたかった。
「浅倉のこと、どう思ってる?」
単刀直入な問いに、由愛は一瞬言葉を失った。
「どう……って、ただのクラスメイト、だよ?」
迷いのない口調。
だけど、陽翔にはまだ確信が持てなかった。
「でも、お前……体調悪いって言ってたのに、浅倉には会ってたよな」
「それは……」
由愛が少し視線を落とす。
「……昨日、ちょっと元気なさそうだったからって、浅倉くんが心配してくれて……それで、少しだけ話してたの」
「俺には……何も言わなかったのに?」
自分でも、こんな言葉を口にするとは思わなかった。
だけど、一度口にしてしまうと、抑えが効かなくなる。
「俺だって、お前のこと心配してたのに……なんで俺には?」
「……陽翔くんには、迷惑かけたくなかったから」
由愛は、ぽつりと言った。
「浅倉くんには……変な気を使わなくても、ただ話を聞いてもらえた。でも、陽翔くんには……弱いところ、見せたくなかった」
「……なんで?」
「陽翔くんには……嫌われたくないから」
静かな夜風が、二人の間を吹き抜ける。
陽翔は息をのんだ。
「由愛……」
「……ごめんね、なんか、変なこと言っちゃった」
由愛はぎこちなく笑おうとしたが、陽翔は一歩、彼女に近づいた。
「俺、お前のことが好きだ」
——もう、迷わない。
「友達としてじゃない。浅倉のことを気にするのも、こうしてお前の言葉に一喜一憂するのも……全部、お前のことが好きだからだ」
由愛の瞳が、大きく揺れる。
「……陽翔くん」
「だから、お前の気持ちを聞かせてほしい」
心臓が激しく脈打つ。
由愛は、数秒の沈黙のあと——そっと微笑んだ。
「私も……陽翔くんのことが好き」
その言葉を聞いた瞬間、陽翔の中の不安が一気にほどけていく。
「本当……?」
「うん。ずっと……ずっと言いたかったけど、怖かった」
由愛の頬が、かすかに赤く染まる。
「でも、陽翔くんが先に言ってくれたから……私も、もう誤魔化さない」
気づけば、二人の距離はほんのわずかになっていた。
互いの鼓動が聞こえるほどの近さで——そっと、由愛が陽翔の手を握った。




