67.言葉にできない
67.言葉にできない
浅倉と由愛がマンションのエントランスへ入っていくのを、陽翔はただ見つめることしかできなかった。
扉が静かに閉まる音が、やけに冷たく響く。
(……俺、何やってんだ?)
ただのクラスメイトのはずなのに、こんなふうに後をつけてまで、彼女のことを気にしている。
でも、それくらい今の状況が引っかかっていた。
由愛が体調を崩していたのなら、俺だって心配だった。
なのに、俺には何も言わず、浅倉には……。
気づけば、ポケットの中でスマホを強く握りしめていた。
(……いや、そんなのただの偶然だ)
自分にそう言い聞かせようとする。
けれど、心の奥底では分かっていた。
浅倉は、由愛のことを気にかけている。
少なくとも、「ただのクラスメイト」ではない。
(なら、俺は……?)
最近、由愛と過ごす時間は増えた。
名前で呼び合うようにもなった。
それが特別だと感じていたのは、俺だけなのか?
——いや。
お揃いのキーホルダー。
屋上で交わした言葉。
「2人だけの秘密」と笑った、あの表情。
何もなかったわけじゃない。
少なくとも、俺にとっては。
(……だったら)
ここで引き下がっていいのか?
何も言えないまま、何もできないまま、浅倉に取られてしまっても——本当にそれでいいのか?
答えは、分かっていた。
「……っ」
陽翔は大きく息を吸い込んだ。
そして、一歩踏み出す。
——由愛に、今の自分の気持ちを伝えるために。
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