65.募る不安
65.募る不安
放課後になっても、由愛からの返信はなかった。
陽翔はスマホを何度も確認したが、メッセージの通知は変わらず沈黙を保っている。
(……本当に体調不良なのか? それとも、俺と話したくないから?)
考えれば考えるほど、不安が募っていく。
昨日までの由愛の態度を思い出す。
たしかに少しよそよそしかった気もするが、それが直接的な理由なのかは分からない。
けれど、何かが変わったのは確かだ。
(……俺、どうすればいいんだろう)
教室に残るクラスメイトたちの声が遠くに聞こえる。
陽翔は、気がつけば鞄を手にしていた。
「おい、藤崎。帰るぞ」
「……ああ」
友人に声をかけられ、陽翔は曖昧に頷く。
頭の中には、ずっと由愛のことがあった。
学校を出て、駅へ向かう道すがらも、ずっとスマホを握りしめたまま、通知を待っていた。
改札を抜け、電車に揺られながら、何度も画面を確認する。
しかし、由愛の名前が表示されることはなかった。
(……俺から、もう一回送るべきか?)
だが、もし迷惑だったら——。
そんな考えがよぎり、結局送ることができなかった。
電車が自宅の最寄り駅に着く。
改札を抜けたところで、ふと足が止まった。
(……このまま何もしないで、待つだけでいいのか?)
その時、目の前を一人の男子が横切った。
短めの髪。
落ち着いた雰囲気の制服姿。
(……浅倉?)
驚き、思わず目をこすったが、見間違いではなかった。
由愛と一緒に帰っていた、あの男子——浅倉が、陽翔の最寄り駅で降りていた。
(なんで、ここに……?)
まるで考えがまとまらないまま、陽翔は無意識のうちに浅倉の後を追っていた。
すると、浅倉は駅前のロータリーで足を止め、スマホを取り出した。
そして、そのまま通話を始める。
「……うん、今駅に着いた。これから向かうよ」
(向かう……? どこへ?)
嫌な予感がした。
次の瞬間、浅倉が歩き出す。
その道を進めば、由愛の家があるはずだった。
陽翔の心臓が、ドクンと跳ねる。
(まさか……由愛の家に?)
確かめるべきか、迷う。
でも、このまま見過ごすことはできなかった。
陽翔は、一歩踏み出した。




