64.届かない声
64.届かない声
翌朝、陽翔はいつものように登校し、教室に入った。
由愛の席が空いているのが、真っ先に目に入る。
(……休み?)
昨日のことがあっただけに、嫌な予感がした。
「なあ、橘って休みか?」
近くの席の女子に何気なく尋ねる。
「ああ、朝から連絡あったみたいだよ。体調悪いって」
「体調……」
陽翔は思わず唇を噛んだ。
本当にただの体調不良ならいい。
けれど、昨日のことが関係しているのだとしたら——?
(まさか……俺が原因か?)
心の奥がざわつく。
昼休みになっても、授業が終わっても、由愛は学校に来なかった。
陽翔は落ち着かないまま、スマホを取り出す。
メッセージアプリを開き、由愛とのトーク画面を見つめた。
(……送るべきか?)
けれど、昨日のことを思い出すと、指が止まる。
浅倉と並んで帰る由愛の姿。
一度も振り返ることなく、遠ざかっていった背中——。
(……俺が送って、迷惑じゃないか?)
そんな考えが頭をよぎる。
けれど、何も言わないまま、ただ距離ができてしまうのが怖かった。
意を決して、画面に指を滑らせる。
『大丈夫か? 何かあった?』
打ち込んで、すぐに送信ボタンを押した。
——既読がつかない。
しばらくスマホを見つめていたが、画面は静まり返ったまま。
(……やっぱ、ダメか)
落ち込んだ気持ちのまま、スマホをポケットにしまう。
教室の窓の外には、青空が広がっていた。
けれど、陽翔の胸の中は、それとは正反対に曇っていた。




