61.変わる距離、変わらない想い
61.変わる距離、変わらない想い
昼休み、陽翔は一人で屋上へと向かっていた。
(……由愛と話せなかったな)
それが妙に引っかかる。
これまでは当たり前のように隣にいたのに、今日はずっと距離を感じている。
「……俺、何かしたか?」
心当たりがないわけじゃない。
昨日、ちゃんと話せなかったこと。
それが原因かもしれない。
けれど、それだけで態度が変わるものだろうか。
(……由愛は、俺のことをどう思ってるんだろう)
今さらながら、そんな疑問が浮かぶ。
からかわれてるだけ? それとも、本当に俺のことを……?
「……考えても仕方ねえか」
陽翔は屋上のドアを押し開けた。
春の風が心地よく吹き抜ける。
けれど、そこには誰の姿もなかった。
(前なら、ここで由愛が待ってたこともあったのにな)
そんなことを考えてしまう自分が、少し嫌になる。
ベンチに腰を下ろし、スマホを取り出した。
メッセージアプリを開く。
由愛とのトーク画面。
そこには昨日の「ごめんね」のメッセージが、未だにぽつんと残っている。
(……返信、してなかったな)
何か送ろうかと、指を動かしかけて——やめた。
どう送ればいいのか分からない。
何を言っていいのかも。
「……俺、ちょっとヘタレすぎだろ」
自嘲するように呟く。
このままじゃダメだ。
ちゃんと、向き合わないと。
そう思いながらも、由愛と話すためのきっかけをつかめずにいた。
そして、放課後。
下校の時間になっても、陽翔は由愛に話しかけられずにいた。
由愛もまた、陽翔に話しかけることはなかった。




