57.答えを知る勇気
57.答えを知る勇気
並んで歩く帰り道。
いつもと同じはずなのに、陽翔の胸の奥には得体の知れないモヤモヤが広がっていた。
(好きな人……いるんだよな)
何度も繰り返し考えてしまう。
自分ではない誰かの名前が、由愛の心の中にあるのかもしれない。
そう思うと、言葉を発するのが怖くなった。
不意に、由愛が口を開く。
「ねえ、藤崎くん」
「……ん?」
「なんか、さっきから元気ないよね?」
「そ、そんなことねえよ」
慌てて誤魔化すように笑う。
「嘘。顔に出てる」
「……出てるか?」
「うん。すごく」
由愛はじっと陽翔を見つめた。
その視線から、逃げるように前を向く。
(……このまま誤魔化せればいいのに)
でも、由愛は引き下がらなかった。
「もしかして……さっきの話、気にしてる?」
「……」
図星だった。
否定しようと口を開くが、うまく言葉が出てこない。
(気にするなって方が無理だろ……)
今すぐ「好きな人って誰なんだ?」と聞けば、答えてくれるだろうか。
でも——
(聞いて、自分じゃなかったら)
今の関係が、壊れてしまう気がした。
陽翔が言葉に詰まっていると、由愛はふっと笑った。
「ふふっ」
「……な、なんだよ」
「やっぱり、気にしてる」
「……別に」
「藤崎くんってさ、すごくわかりやすいよね」
「そんなこと……」
言い返そうとしたが、由愛の表情を見て言葉が詰まる。
どこか、優しくて——それでいて、少しだけ寂しそうだった。
「……もし、聞かれたら答えようと思ってたのに」
「え?」
由愛は足を止め、陽翔の方を向いた。
「でも、聞かないんだね」
柔らかく微笑む彼女の瞳に、陽翔は一瞬、息を呑む。
「……」
その言葉の意味を考える。
由愛が待っていたのは——
自分が、踏み出す勇気を持つことだったのかもしれない。




