55.揺れる気持ち
55.揺れる気持ち
校門の前に立ち尽くしながら、陽翔は遠ざかっていく由愛の背中を見つめていた。胸が締め付けられるように苦しい。風景が霞むように感じる。
少し離れた場所で、男子が真剣な表情で由愛に何かを伝えている。
(……やっぱり、告白か)
その光景が、どうしようもなく胸に刺さった。
さっきまで自分がしようとしていたことを、一歩踏み出せなかったことを、他の誰かが先にやっている。
それがこんなにも苦しいとは思わなかった。
(なんで、もっと早く……)
自分を責めたくなる。
でも、今更そんなことを思ったところでどうにもならない。
由愛は、なんて返すんだろう。
少しの期待と、それを打ち消すような大きな不安が入り混じる。
彼女の表情を読もうとするが、遠すぎてよく見えない。
やがて、男子が何かを言い終わり、由愛がゆっくりと口を開いた。
……何を言っているのかは聞こえない。聞きたい。いや聞きたくない。
ただ、一つだけはっきりと分かったことがある。
——由愛は、首を横に振った。
(……断った?)
心臓が、少しだけ軽くなるのを感じる。
男子は少し肩を落とし、それでも最後に何かを言ってから、ゆっくりと踵を返した。
そして、そのまま校門を出て行く。
由愛が、陽翔の方へ戻ってきた。
「……待たせちゃって、ごめんね」
いつもの彼女と変わらないように見える。
でも、ほんの少しだけ、表情が硬い気がした。
「……告白、されたのか?」
自然と、そんな言葉が口から出た。
由愛は少しだけ目を丸くして、それから小さく笑った。
「……まあね」
その言い方に、陽翔は少しだけ引っかかるものを感じた。
「それで……断ったのか?」
「うん」
「……なんで?」
自分でも、なぜそんなことを聞いたのか分からなかった。
ただ、彼女の口からその理由を聞きたかった。
由愛は、少しだけ視線をそらして——
「……好きな人がいるから、かな」
そう、静かに言った。
陽翔の鼓動が、大きく跳ねる。
(好きな人……?)
それが誰なのか——怖くて聞けなかった。
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