54.すれ違う心
54.すれ違う心
放課後の空は、どこまでも穏やかだった。
西日が差し込み、二人の影を長く伸ばす。
陽翔と由愛は、並んで校門を出た。
言葉は少なく、ただ並んで歩く。
(告白するなら、今しかない——)
陽翔は、何度も自分に言い聞かせた。
だが、声が出ない。
横を歩く由愛は、どこか考え事をしているように見える。
(……もしかして、由愛も何か言いたいことがあるのか?)
そんな風に思うと、さらに言い出しにくくなる。
沈黙が続く。
(このままじゃ、何も変わらない……しっかりしろ俺!)
意を決して、陽翔は口を開いた。
「なあ、由愛」
「ん?」
由愛が振り向く。
その瞬間——。
「あっ、由愛ちゃん!」
弾むような声が、二人の間に割り込んだ。
見ると、一人の男子生徒が駆け寄ってくる。
背が高く、爽やかな雰囲気の生徒。
(……誰だ?)
陽翔が訝しむ間に、その男子は由愛の前に立った。
「ずっと話したかったんだ。ちょっと、いいかな?」
「え……」
由愛が一瞬戸惑ったように見えた。
「えっと……ごめん、今——」
「すぐでいいから!」
男子はまっすぐに由愛を見つめていた。
その雰囲気から、何を言おうとしているのかは明白だった。
(まさか……告白?)
陽翔の心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。
「藤崎くん、ごめん。少しだけ、いい?」
由愛が申し訳なさそうに陽翔を見た。
「……ああ」
そう返すのが精一杯だった。
由愛と男子は、少し離れた場所へと向かう。
陽翔は、その場に立ち尽くしていた。
(……なんで、こんなタイミングで)
さっきまで、自分がしようとしていたこと。
それが、誰かに先を越されたという現実。
胸の奥が、締め付けられるように痛かった。




