53.決意と迷い
53.決意と迷い
由愛の言葉を聞いた後も、陽翔はしばらくその場から動けなかった。
(……告白、しよう)
そう決めたはずなのに、心臓がやけにうるさい。
由愛は「いいと思うよ」と言った。それは、彼女も誰かを好きになったらちゃんと伝えるという意味なのか。
それとも——遠回しな「待ってるよ」というサインだったのか。
(深読みしすぎか……)
結局、陽翔はそれ以上何も言えず、「そろそろ帰るか」と話を切り上げた。
由愛は「うん」と頷いて、ふたりで並んで屋上を後にする。
階段を降りる途中、由愛がぽつりと呟いた。
「……ねえ、陽翔くん」
「ん?」
「もし、誰かに告白されたら、どうする?」
「え?」
またしても予想外の質問に、陽翔は戸惑う。
「そりゃ……相手によるんじゃないか?」
当たり障りのない答えを返したつもりだったが、由愛は何か考えるように視線を落とした。
「そっか……」
それだけ言うと、由愛はそれ以上何も言わなかった。
(今のって……どういう意味だったんだ?)
昨日までの由愛なら、からかうような笑顔を見せて「たとえば私だったら?」なんて言いそうなのに——今日は妙に静かだった。
(もしかして、本当に誰かに告白される予定がある……とか?)
そんな考えが浮かんで、陽翔は嫌な気持ちになる。
それがありえないと言い切れないほど、由愛は魅力的で、当然ながら周囲の男子からの人気も高い。
由愛が自分に好意を持ってくれているのか、それともただの友達としての距離感なのか。
(……分からない)
だからこそ、怖い。
(もし告白して、断られたら……)
それでも、陽翔は昨日からずっと答えを出そうとしていた。
このまま曖昧な関係でいるのが嫌だと思った。
屋上から降りて校門に向かう途中、陽翔はそっと由愛の横顔を盗み見る。
彼女は何を考えているのだろう。
そして——俺のことを、どう思っているんだろう。
(やっぱり……俺の方から、ちゃんと伝えなきゃダメだよな)
強くなる鼓動を感じながら、陽翔はもう一度、心の中で決意を固めた。




