52.距離と温度
52.距離と温度
屋上には、静かな風が吹いていた。
春の日差しが心地よく、由愛の髪がそよぐのを、陽翔は無意識に目で追っていた。
「……ここ、気持ちいいよね」
由愛がぽつりと呟く。
陽翔は少し遅れて「そうだな」と返した。
由愛は柵にもたれながら、どこか遠くを見るように視線をやっている。
まるで何かを考えているような、けれど、いつものように飄々とした雰囲気もある。
「ねえ、陽翔くん」
「ん?」
「……もし、誰かを好きになったら、どうする?」
「——え?」
突然の言葉に、陽翔は思考が止まる。前にも聞かれた質問だった。
(ま、待て。これってどういう意味だ? この前は、自分の気持ちを誤魔化さずに正直に向き合えるかどうかみたいな意味でだったかな……でも今度は違うよな?)
由愛は、いつもみたいにからかうような顔ではなく、ほんの少し真剣な表情をしていた。
この質問の意図を深く考えるべきか、それとも軽く流すべきか——。
(……いや、俺、ここで逃げたらダメだろ)
陽翔は、ぎゅっとポケットの中のお揃いのキーホルダーを握りしめた。
「そりゃ……好きになったら、ちゃんと伝えるだろ」
自分でも驚くほど、落ち着いた声が出た。
由愛がこちらを見る。
「……ちゃんと?」
「ああ、ちゃんと」
由愛は少しの間、陽翔の顔をじっと見つめると、ふっと微笑んだ。
「そっか。陽翔くんって、そういうところ真面目だよね」
「そうか?」
「うん。……いいと思うよ」
そう言って、由愛はふわりと笑った。
その笑顔に、また心臓が跳ねる。
(ダメだ……こんなの、もう誤魔化せない)
目の前の彼女が、どうしようもなく特別で、大切で——愛おしい。
これ以上、曖昧な関係のままでいるのは、きっともう無理だ。
(……告白、しよう)
風に揺れる桜の花びらを見つめながら、陽翔はそう心に決めた。
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