50/250
49.気づきたくない気持ち
49.気づきたくない気持ち
「——ごちそうさま」
陽翔は最後に残していた由愛の卵焼きを口に運ぶ。
「……うまい」
「でしょ?」
「ちょっと甘めだな」
「うん、お母さんが作る卵焼きがこういう味で、それが好きだから」
そう言って、由愛はどこか懐かしそうに微笑んだ。
(……こういう表情、初めて見たかも)
今まで由愛は「学年一の美少女」とか「クールで近寄りがたい」とか言われていたけど——こうやって話してみると、案外普通の女の子なんだと思う。
だけど。
「——陽翔」
名前を呼ばれるたびに、胸が少しだけ高鳴るのは、きっと普通じゃない。
「な、なんだよ」
「また、一緒にお弁当食べようね」
「……まあ、別にいいけど」
「ふふ、やった」
その笑顔を見た瞬間、陽翔は思う。
(……これ、絶対やばい)
もう“ただのクラスメイト”には戻れない。
でも、それを認めたくなくて、陽翔は深く考えるのをやめた。
——気づいてしまったら、もう戻れなくなる気がしたから。




