48.ふたりきりの昼休み
48.ふたりきりの昼休み
「じゃあ、どこで食べる?」
由愛が軽くお弁当を持ち上げながら尋ねた。
「え、教室じゃないのか?」
「うーん、せっかくだし、どこか静かなところがいいな」
「静かなところって……」
陽翔は少し考えた後、ふと思い出す。
「そういや、中庭の隅っこってあんまり人いないよな」
「うん、それいいね」
こうして、二人は教室を抜け出し、校舎裏の中庭へと向かった。
***
「……あ、やっぱりここ静かでいいね」
由愛がベンチに腰を下ろしながら、心地よさそうに息をつく。
「ま、まあな」
陽翔も隣に座り、お弁当を開いた。
「陽翔って、どんなお弁当?」
「え? まあ、普通だけど……」
由愛が興味津々といった表情で覗き込んでくる。
「わ、意外と彩りいいね」
「母さんが作ってるからな」
「いいなぁ、愛情たっぷりって感じ」
「……そんな大げさなもんじゃねぇよ」
そう言いながらも、どこか気恥ずかしくなる。
「由愛は?」
「私は……うん、自分で作ってるよ」
「マジか。すごいな」
「まあ、簡単なやつだけどね」
そう言って、由愛は自分のお弁当を開く。
そこには、きれいに詰められた卵焼きやおかずが並んでいた。
「……めっちゃうまそう」
「ふふ、でしょ?」
「……料理得意なのか?」
「うーん、好きだけど、得意ってほどでもないよ」
由愛は少し照れたように笑いながら、卵焼きをひとつ箸でつまんだ。
「——はい、あーん」
「は?」
突然の行動に、陽翔は固まる。
「食べてみる?」
「いやいやいや、何してんだお前!」
「別にいいでしょ? ほら、あーん」
「誰がそんな恥ずかしいこと……!」
「ふふっ、冗談だよ。でも、本当に食べてほしいな」
由愛は小さく笑いながら、卵焼きを自分の弁当箱の隅に置いた。
「これ、あとで食べてね」
「……わかったよ」
(……お前、ほんとズルい)
結局、また由愛のペースに巻き込まれる。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
いや——むしろ、嬉しいとさえ思ってしまった。
ふたりきりの昼休み。
この時間が、少しずつ特別なものに変わっていく気がした。




