47.近すぎる距離
47.近すぎる距離
「それじゃあ、今日の授業はここまで」
先生の声と同時に、昼休みを知らせるチャイムが鳴る。
陽翔は軽く伸びをしながら、ぼんやりと窓の外を見た。
(なんか、疲れた……)
授業中、ずっと隣の由愛の存在を意識してしまい、妙に集中できなかった。
ちらっと横を見ると、由愛もノートを閉じながら、ふっと息をついている。
「……ねえ、陽翔」
「ん?」
「ちょっといい?」
そう言って、由愛がスッと顔を近づけてきた。
「っ……!」
思わずのけぞる陽翔。
「な、なんだよ……」
「別にそんなに驚かなくてもいいでしょ?」
「い、いや、近いって……」
「だって、小声で話したいんだもん」
(そういう問題じゃねぇ……!)
至近距離すぎる。
近すぎて、由愛の長いまつげや、ふんわりと香るシャンプーの匂いまで感じてしまう。
「ねえ、陽翔ってさ、お弁当持ってきてる?」
「え? ああ……まあ、一応」
「そっか、じゃあさ、一緒に食べない?」
「は?」
「せっかく隣の席になったし、またどうかなって」
由愛はにこっと微笑む。
「だ、誰かと一緒に食べたりするタイプだったっけ?」
「うーん、どっちかっていうと一人で食べることが多かったかな」
「なら、なんで俺と?」
「……なんでだろうね?」
ちょっとだけ、いたずらっぽい笑み。
(……ズルい)
理由をはぐらかすのが、なんとなく由愛らしい気がして、陽翔はそれ以上突っ込めなかった。
「……まあ、別にいいけど」
「ふふっ、やった」
嬉しそうに笑う由愛を見て、陽翔は小さくため息をつく。
(……結局、俺はこいつに振り回されっぱなしだな)
でも、その時間が悪くないと思ってしまう自分がいることにも気づいていた。




