46.特別な距離
46.特別な距離
「——席、そろそろ決めようか」
朝のHRが終わった後、担任の先生がそう告げた。
どうやら今日から席替えらしい。
「くじ引きで決めるぞー」
クラス中がざわめく中、陽翔は淡々とくじを引いた。
(……どこでもいいけど)
席運には特に期待していなかったが、紙に書かれた番号を見て少し驚いた。
(窓際の、一番後ろ……)
なんとなく落ち着く場所だなと思いながら席に向かうと——。
「……あれ?」
隣の席に座ったのは、由愛だった。
「え、橘?」
「ふふ、びっくり?」
「お、おう……」
(マジか……)
つい昨日、名前で呼び合うようになったばかりなのに、まさかの隣の席。
なんとなく気恥ずかしくて、妙に落ち着かない。
「これって、運命?」
「……いや、ただの偶然だろ」
「でも、私はちょっと嬉しいな」
さらっとそんなことを言うから、ますます意識してしまう。
(……お前、ほんとにズルいよ)
「ねえ、陽翔」
「……っ!」
まだ慣れない名前呼びを、こんなに自然にされると心臓に悪い。
「これから授業中、隣で寝たりしたら起こしてあげるね?」
「いや、寝るつもりねぇし」
「ふふ、それならいいけど」
由愛は、どこか楽しそうに微笑んだ。
そして、その笑顔を見た瞬間——。
(……あ、やばい)
陽翔は、自分が完全に由愛を意識していることを、改めて自覚した。




