42.素直になれない理由
42.素直になれない理由
その夜、陽翔はベッドに横になりながら天井を見つめていた。
(……今日の橘、やっぱりおかしかったよな)
「私も、藤崎くんのこと……」
あの言葉の続きが聞けなかったことが、ずっと頭から離れない。
(もしかして、あのまま聞けば……)
由愛の本当の気持ちを知れたのかもしれない。
だけど、彼女は笑って誤魔化した。
「……なんで、誤魔化すんだよ」
つぶやいたところで答えが出るわけもない。
仕方なくスマホを手に取り、SNSを開く。
すると、タイムラインに「いいね」の通知があった。
(……橘?)
由愛が、以前陽翔が投稿した風景写真に「いいね」を押していた。
特にコメントはない。
でも、なんとなく——自分の方だけが、彼女のことを考えているのではない気がした。
(……俺、どうしたいんだろ)
由愛のことを意識するようになったのは、最近のことだ。
けれど、このまま何も変わらないままでいいのか——。
そんなことを考えていると、スマホが震えた。
「……!」
画面を見ると、由愛からのメッセージだった。
【まだ起きてる?】
(……え?)
普段、由愛から夜に連絡が来ることはほとんどない。
なんだかドキッとして、すぐには返信できなかった。
(いや、普通に返せばいいだけだろ……)
落ち着けと言い聞かせながら、慎重に指を動かす。
【起きてるけど、どうした?】
送信ボタンを押した途端、すぐに既読がついた。
——少しして、返信が来る。
【ちょっと話したいことがあって】
【電話、いい?】
(……電話?)
ますます胸の鼓動が速くなる。
由愛が、わざわざ電話で話したいことって……?
深夜の静かな部屋の中で、陽翔の指がゆっくりと通話ボタンを押した。
コール音が数回鳴る。
「……もしもし?」
「……あ、藤崎くん」
由愛の声は、いつもより少しだけ弱々しく聞こえた。
「どうした?」
「……なんかね、ちょっとだけ、誰かと話したくなったの」
(……誰か、じゃなくて、俺?)
心臓がまた跳ねる。
「……何かあったのか?」
「……ううん。別に、大したことじゃないよ」
そう言いながらも、彼女の声はどこか不安げだった。
(やっぱり、何かあるんだろ)
陽翔は、自然とスマホを強く握る。
「……俺でよかったのか?」
「……うん。藤崎くんだから、かな」
「……っ!」
静かな夜。
スマホ越しの声なのに、心臓が痛いくらいに鳴る。
「……ちょっとだけ、このまま話してていい?」
「……ああ」
理由はわからない。
だけど、この時間が大切なもののように思えた。




