41.揺れる気持ち
41.揺れる気持ち
夕暮れのオレンジ色の光が、二人の影を長く伸ばしていた。
由愛の「私も、藤崎くんのこと……」という言葉の続きを、陽翔は息を呑んで待っていた。
だけど——。
「……なんでもない」
由愛は小さく笑って、ふいに視線を逸らした。
「え?」
「気にしないで。ちょっと、聞いてみたかっただけ」
(なんだ、それ……)
冗談っぽく流そうとする由愛。
だけど、さっきの一瞬の躊躇いや、微かに赤くなった頬は、嘘ではないはずだった。
「……橘」
「ん?」
「俺は、ちゃんと聞きたかったんだけど」
「……」
由愛の表情が、ほんの少し揺れる。
けれど、すぐにふわっと笑って誤魔化した。
「藤崎くん、意外と真面目だよね」
「……お前が適当すぎるんだよ」
「そうかも?」
楽しそうに笑う由愛。
だけど、その笑顔の奥には、ほんの少しの戸惑いが見えた気がした。
(なんで、誤魔化すんだよ)
陽翔は、由愛の本当の気持ちを知りたかった。
でも、無理に聞くこともできず、それ以上踏み込めなかった。
***
そのまま二人は、沈黙のまま歩く。
いつものような気楽な雰囲気ではなく、微妙にぎこちない空気。
(やっぱ、意識しすぎてるのか……?)
昨日までは、ただのクラスメイトだった。
けれど、今はもう違う。
お揃いのキーホルダー。
「二人だけの秘密」
そして——「好き?」という問い。
すべてが、二人の関係を変えようとしていた。
「……今日はありがとね」
由愛が、マンションの前で立ち止まり、陽翔の顔を見た。
「なんで礼を言うんだよ」
「なんとなく、ね」
その言葉の意味を聞き返そうとした。
でも、由愛はもうマンションのエントランスへと向かっていた。
「……じゃあね、藤崎くん」
ひらひらと手を振る由愛の背中を、陽翔はただ見つめるしかなかった。
(結局……橘は、何を言いたかったんだ?)
ぼんやりとしたまま、答えの出ない気持ちを抱えたまま、夜風に吹かれながら、陽翔はその場に立ち尽くしていた。




