39.二人だけの秘密
39.二人だけの秘密
教室に着くと、クラスメイトたちがすでに何人か席についていた。
「おはよー、藤崎」
「お、橘も一緒か。珍しいな」
数人が軽く挨拶をしてくるが、陽翔はどこか落ち着かない。
(……別に、今までと何も変わってないはずなのに)
それなのに、由愛と並んでいるだけで、やたらと意識してしまう。
由愛のほうを見ると、彼女はいつも通りの表情だった。
でも、よく見ると、由愛の鞄についた星のキーホルダーが目に入る。
(……お揃いなんだよな、これ)
それを見た瞬間、妙な緊張感が走る。
「ん? どうかした?」
「え、いや、別に」
由愛が小首をかしげながら陽翔を覗き込む。
近い。
(……やばい、今日の橘、やたらと距離が近くないか?)
考えすぎなのかもしれない。
でも、昨日までとは違って、由愛の存在がすごく身近に感じる。
***
昼休み。
「藤崎くん、屋上行こ?」
「……え?」
「お弁当、一緒に食べよ?」
「……あ、ああ」
自然な流れで、二人は屋上へと向かった。
広い屋上には、すでに何人かの生徒がいたが、二人は隅のほうのベンチに座る。
由愛は鞄から弁当を取り出しながら、ふと陽翔を見た。
「ねえ、今日さ」
「ん?」
「誰かに、お揃いのキーホルダーのこと聞かれたりした?」
「……いや、特には」
「そっか、よかった」
「よかった?」
「うん。だって、これ……二人だけの秘密みたいでしょ?」
「っ……」
思わず、由愛の顔をじっと見つめてしまう。
彼女は、悪戯っぽく微笑んでいた。
「……藤崎くん、そういうの嫌?」
「……別に、嫌じゃない」
「そっか」
「……でも、お前、もうちょいそういうこと意識しろよ」
「え?」
「お揃いとか、秘密とか……そういう言葉、あんまり無防備に言うなって」
「……?」
由愛はきょとんとした表情を浮かべる。
けれど、少ししてから、何かに気づいたように顔を赤くした。
「……もしかして、意識してる?」
「……っ!」
「ふふ、なんか藤崎くんがそう言うと、逆に意識しちゃうんだけど」
「……もういい、弁当食うぞ」
誤魔化すように弁当を広げる。
だけど、顔の熱は全然引いてくれなかった。
由愛は楽しそうに笑いながら、自分の弁当を開けた。
(……これ、絶対わざとだろ)
陽翔は心の中でため息をつきながら、箸を手に取った。
本当に、由愛には敵わない。
でも——
(“二人だけの秘密” か……)
その言葉が、なんとなく嬉しく感じてしまう自分がいた。




