36.放課後の誘い
36.放課後の誘い
放課後になり、陽翔は由愛と並んで歩いていた。
「で、どこに行くんだ?」
「うん……ちょっと歩くけど、大丈夫?」
「まあ、別に」
由愛は「そっか」と小さく笑い、先を歩き出す。
(……なんだろうな、この感じ)
一緒に帰るのはもう慣れたはずなのに、今日は妙に緊張する。
理由は分かっている——由愛の誘いに特別な意味を感じてしまっているからだ。
「ここ」
そう言って、由愛が足を止めたのは、小さな雑貨屋だった。
「雑貨屋?」
「うん。ちょっと見たいものがあって」
店内に入ると、柔らかな木の香りがした。
並んでいるのは、小さなアクセサリーや、手作りの文房具、可愛らしいインテリア雑貨。
(意外だな……橘って、こういう店好きなのか)
「ほら、これ」
由愛が指差したのは、小さなキーホルダーのコーナーだった。
「……キーホルダー?」
「うん。前から気になってて」
由愛は一つ手に取る。
それは、小さな星の形をしたキーホルダーだった。
「可愛いでしょう?」
「まあ、悪くはないんじゃないか?」
「それ、褒めてる?」
「一応」
由愛は「もー」と小さく笑いながら、もう一つ別のキーホルダーを取る。
「これ、ペアになってるんだよ」
「ペア……?」
陽翔が改めて見ると、星のキーホルダーは二つセットになっていて、よく見ると半分ずつの形をしていた。
「一つは私、もう一つは藤崎くんに」
「……え?」
「……ダメ?」
そう言って由愛は少し不安そうにこちらを見る。
(待て待て待て、これはどういう意味だ?)
ペアのキーホルダーなんて、普通、ただの友達には渡さないんじゃ——。
「別に、深い意味はないよ?」
由愛はさらっと言うけど、その頬は少し赤い。
(いや、それどう考えても深い意味あるやつだろ)
陽翔は一瞬迷ったが——
「……まあ、別にいいけど」
そう答えると、由愛はホッとしたように笑った。
「よかった」
由愛がレジに向かう後ろ姿を見つめながら、陽翔はこっそりため息をつく。
(……もう、本当にダメかもしれない)
たかがキーホルダーひとつ。
けれど、それだけでここまで意識してしまう自分に、陽翔は驚いていた。
そして何より——
このペアのキーホルダーを、ちゃんと大切にしたいと思っている自分にも。




