34.眠れない夜
34.眠れない夜
部屋に戻り、ベッドに寝転がったものの、まったく眠れなかった。
(……やべぇ)
天井を見つめながら、陽翔はため息をつく。
今日一日を思い返せば、由愛のことばかりだった。
「これからも、一緒にいてくれる?」
「……ずっと、一緒にいてくれる?」
由愛の言葉が、何度も頭の中で反響する。
(あれ、どういう意味だったんだろうな……)
ただの友達として? それとも——。
考えれば考えるほど、胸がざわつく。
そして——何よりも、自分の気持ちはもうはっきりしている。
(俺、橘のことが好きなんだ)
認めたくなくて、ずっと誤魔化してきた。
でも、もう無理だった。
あの笑顔を見て、あの声を聞くだけで、心臓が跳ねる。
そばにいると嬉しくて、離れるのが寂しくて仕方ない。
(……やっぱ、ちゃんと伝えた方がいいのか?)
でも、それで関係が壊れたら——?
今の曖昧な距離が崩れて、もう一緒にいられなくなったら?
「……クソ、考えすぎだろ俺」
枕を抱えて寝返りを打つ。
こんなこと、中学までの自分なら絶対に考えなかった。
それなのに——
(橘が、特別な存在になりすぎてる)
意識してしまったら、もう元には戻れない。
「……どうすりゃいいんだよ」
結局、その夜は一睡もできなかった。
***
翌朝、目の下にクマを作った状態で学校へ向かうと——
「おはよ、藤崎くん」
いつものように、由愛が微笑んでいた。
(……うわ、ダメだ)
昨日までと何も変わらないはずなのに、ただ「おはよう」と言われただけで、鼓動が速くなる。
たぶん、もう隠しきれない。
(……どうする、俺)
このまま曖昧な関係のままでいるのか。
それとも——勇気を出して、一歩踏み出すのか。
由愛の笑顔を見つめながら、陽翔は心の中で決断しようとしていた。




