33.気づいてしまった気持ち
33.気づいてしまった気持ち
夕暮れの街を並んで歩く。
由愛の指先が、ほんの少しだけ陽翔の袖に触れたまま——。
(……これ、どうすればいいんだ?)
振り払う理由はない。
けど、意識しないなんてもっと無理だった。
普段の自分なら、適当に流してしまうかもしれない。
でも、今はそれができなかった。
(俺……やっぱ、もうダメかもしれない)
——由愛のことを「特別な存在」として見始めてしまっている。
ただのクラスメイトじゃない。
ただの友達でもない。
この気持ちに、もう嘘はつけなかった。
「ねえ、藤崎くん」
「ん?」
「……今日、楽しかった」
「……そっか」
短いやりとり。
それだけなのに、胸が苦しくなる。
今まで、こんな気持ちになったことなんてなかったのに。
「……なあ、橘」
「なに?」
「もし……もしだけど、俺が、お前のことを——」
そこまで言いかけて、言葉が詰まる。
(いや、待て。こんな中途半端なまま言うことじゃない)
ちゃんと伝えるなら、もっとはっきりと。
今はまだ、その覚悟が足りない。
「……いや、なんでもない」
「ふふっ、なにそれ」
由愛はくすっと笑った。
「藤崎くん、たまに変なとこで真剣な顔するよね」
「そ、そうか?」
「うん。でも、そういうところ……嫌いじゃないよ」
「……っ」
まただ。
また、由愛はさらっとそんなことを言う。
冗談みたいな、でも、本当に冗談なのか分からないような——。
(……マジで、勘弁してくれ)
由愛の言葉ひとつで、こんなにも揺さぶられるなんて。
「じゃあ、また明日ね」
マンションのエントランスの前で、由愛はひらりと手を振る。
「……ああ、また明日」
由愛が建物の中へ入っていくのを見届けながら、陽翔は大きく息を吐いた。
(……俺、もう完全に落ちてるよな)
そう自覚した瞬間、どうしようもなく恥ずかしくなった。
でも、それと同じくらい——
少しだけ、嬉しくもあった。




