30.曖昧な距離
30.曖昧な距離
昼休みになっても、朝の話題はクラスのあちこちで続いていた。
「やっぱり藤崎くんと橘さんって、いい感じなんじゃない?」
「えー、でも橘さんって誰ともあんまり仲良くしてなかったよね?」
「だからこそ気になるんだって!」
(……めんどくせぇ)
陽翔はため息をつきながら、昼食の弁当を開いた。
普段なら気にすることなく食べるはずなのに、どうにも周囲の視線が気になって仕方ない。
(なんでこんなことになってんだ……)
隣の席に座る由愛は、そんな騒ぎをどこ吹く風といった様子で、静かにパンを食べていた。
(本人は全然気にしてねぇのか……)
むしろ、さっきの「もし本当に付き合ってたら?」なんて言葉まで考えると、こっちをからかって楽しんでいるようにすら見える。
——そう思っていた、その時。
「ねえ、藤崎くん」
由愛が不意に話しかけてきた。
「ん、なんだ?」
「……外、行かない?」
「は?」
「ここ、ちょっと騒がしいし」
そう言って、由愛は席を立った。
陽翔は一瞬迷ったが、このまま教室で噂され続けるよりはマシかもしれないと思い、立ち上がった。
***
二人は屋上へと向かった。
幸い、昼休みの屋上にはほとんど人がいなかった。
「ふぅ……やっと静かになった」
由愛は柵にもたれかかりながら、小さく息を吐いた。
「お前、噂とか気にしないのかよ?」
「んー……別に」
「いや、普通は気になるだろ」
「そうかもしれないけど……私、あんまり他人の言うこと気にしないから」
由愛は淡々とそう言うと、ふっと笑った。
「それに、なんだかんだで藤崎くんも気にしてるよね?」
「……そりゃ、まぁ」
「あは、やっぱり」
由愛は陽翔の反応を見て、楽しそうに微笑んだ。
その笑顔が、やけに心臓に響く。
(なんなんだよ、この感じ……)
最初はただのクラスメイトだと思っていた。
でも、気づけばこんなふうに二人きりでいる時間が増えて——。
(俺たちって、結局なんなんだ?)
友達? クラスメイト? それとも——。
考えているうちに、由愛が陽翔の顔をじっと見つめてきた。
「ねえ、藤崎くん」
「……なんだよ」
「もし、本当に付き合ってるって言ったら、どうする?」
「……っ!?」
不意打ちの言葉に、陽翔は完全に固まった。
「お、お前、それ……」
「……ふふ、冗談」
由愛は小さく笑いながら、視線をそらした。
けれど、その横顔はほんの少しだけ、照れているようにも見えた。
(……冗談、か)
そう思ったのに、胸の奥がざわつくのはなぜだろう。
この距離は、どこまでが冗談で、どこからが本気なのか——。
それが分からなくなりそうだった。
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