27.変わり始めた日常
27.変わり始めた日常
翌朝——。
陽翔は学校へ向かう途中、ふと昨日の出来事を思い出していた。
(……なんか、変だよな)
昨日までは、ただのクラスメイトだったはずの由愛。
それなのに、今は彼女のことが頭から離れない。
「……これって、そういうことなのか?」
ぼんやりと考えながら歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿があった。
「橘?」
陽翔が声をかけると、由愛が振り返った。
「おはよう、藤崎くん」
「おう、偶然だな」
「うん。藤崎くん、いつもこの道なの?」
「まあな。橘も?」
「ううん。今日はちょっと気分を変えてみようかなって思って」
「ふーん……」
言葉ではそう答えつつ、陽翔はなんとなく由愛の表情を探る。
(……偶然、じゃない気がする)
いつもと違う道を選んだと言っているが、もしかして……。
「……一緒に行く?」
陽翔が何気なく言うと、由愛は一瞬驚いたように目を見開き——すぐに微笑んだ。
「うん」
その返事が、なぜかやけに嬉しく感じた。
二人並んで歩き出す。
「そういえば、昨日の買い物って、結局何も買わなかったよな?」
「うん。でも、楽しかったからいいの」
「そっか」
「……藤崎くんは?」
「え?」
「昨日、楽しかった?」
唐突な質問に、陽翔は思わず足を止めた。
(楽しかったかって……)
思い返せば、ただの買い物に付き合っただけのはずなのに、不思議と嫌な気持ちはない。
むしろ、由愛と過ごした時間は心地よかった。
「……まあ、悪くなかった」
「そっか」
由愛は、どこか満足そうに微笑んだ。
その笑顔を見て、陽翔の心臓が妙に跳ねる。
(……やっぱり、変だ)
昨日までは、こんな気持ちにならなかった。
だけど今、由愛の何気ない言葉や表情に、いちいち心が揺さぶられる。
「……ったく、朝から変なこと聞くなよ」
「えー? ただ聞いただけなのに」
「お前、わざとだろ」
「さあ、どうかな?」
クスクスと笑う由愛を横目に、陽翔はため息をついた。
(……こいつ、絶対わかってやってるよな)
そんなやり取りを交わしながら、二人は並んで歩き続けた。
——それが、当たり前のように感じ始めている自分に気づかないまま。




