25.言えなかったこと
25.言えなかったこと
「……じゃあ、そろそろ帰ろっか」
美咲の姿が完全に見えなくなると、由愛はそう言って歩き出した。
「お、おう」
陽翔もそれに続く。
しかし——さっきのやり取りが、どうしても頭から離れなかった。
(……本当に大丈夫か?)
由愛の表情は、どこかぎこちなく、作り笑いのようにも見えた。
気にならないわけがない。
でも、無理に聞き出すのも違う気がする。
どうするべきか迷いながら歩いていると、由愛がふっと呟いた。
「……なんかさ」
「ん?」
「お姉ちゃん、やっぱり変わってないなって思った」
「変わってない?」
「うん。いつも私のことを気にして、守ろうとしてくれるの。でも……」
そこで言葉が途切れる。
(……でも?)
陽翔は続きを待った。
しかし、由愛はそれ以上何も言わず、ただ前を向いたまま歩き続ける。
——たぶん、「言えない」のだろう。
何かを抱えているのに、口にすることができない。
(……橘にとって、姉ちゃんってそんなに大きな存在なんだな)
姉を避けようとしているのに、どこか気にしているような態度。
完全に嫌っているわけではないのは明らかだった。
けれど、それ以上踏み込んでいいのか——陽翔は迷っていた。
「……まあ、深く考えなくていいんじゃねぇか?」
ふと、そんな言葉が口をついた。
「え?」
「なんか、お前って姉ちゃんのことになると、いろいろ考えすぎてる気がする」
「……」
「もっと適当でいいだろ。家族だからって、無理に向き合わなきゃいけないわけじゃねぇし」
「……そう、なのかな」
「少なくとも俺は、そう思う」
そう言うと、由愛は少し驚いたように陽翔を見つめた。
そして、ふっと笑う。
「……なんか、藤崎くんらしいね」
「そうか?」
「うん。でも……ちょっと気が楽になったかも」
「なら、よかった」
そう言いながら、陽翔は心の中で小さく息をついた。
(……まだ全部を話してくれるわけじゃないみたいだけど)
それでも、少しだけ由愛の気持ちに寄り添えた気がする。
由愛の「言えなかったこと」を、いつかちゃんと聞ける日が来るだろうか。
そう思いながら、二人は夜の街を並んで歩いていた。
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