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あおはる  作者: 米糠
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24.すれ違う視線

 24.すれ違う視線



「……あ」


 不意に、由愛の表情がこわばった。


「どうした?」


 陽翔が振り返ると、そこには先ほどの黒髪の女性——由愛の姉、橘美咲が立っていた。


「由愛……やっぱり、そうだったのね」


 落ち着いた声。

 けれど、どこか探るような視線が由愛に向けられている。


「……久しぶり、お姉ちゃん」


 由愛は無理に笑みを作りながら、そっと息をついた。


「本当に久しぶりね。まさか、こんなところで会うなんて思わなかった」


 美咲の視線が、ちらりと陽翔へ向けられる。


「……そちらは?」


「あっ、えっと——」


「藤崎陽翔です」


 陽翔が簡潔に名乗ると、美咲はじっと彼を見つめた。


 その視線には、どこか探るような色が混じっている。


「ふぅん……由愛と、どういう関係?」


「クラスメイト、です」


「……クラスメイト、ね」


 美咲は、まるで何かを考えるように微かに微笑んだ。


「お姉ちゃん」


 由愛が一歩前に出る。


「今日は、何か用があったの?」


「別に。ただ、偶然見かけたから声をかけただけ」


「……そっか」


 由愛の声は、どこか警戒していた。


 その空気を感じ取ったのか、美咲はふっと息をついた。


「……由愛、最近は元気にしてる?」


「別に、普通だよ」


「そう。何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」


「……うん」


「それじゃあ、またね」


 そう言い残して、美咲は踵を返す。


 その後ろ姿を見送りながら、陽翔は由愛の表情を横目でうかがった。


 ——どこか、寂しそうだった。


「……大丈夫か?」


「ん?」


「いや、なんか……複雑そうな顔してるからさ」


 由愛は一瞬驚いたように陽翔を見つめ、そしてふっと微笑んだ。


「……藤崎くんって、意外と鋭いよね」


「そうか?」


「うん。でも、大丈夫。昔からあんな感じだから」


「……そっか」


 言葉では「大丈夫」と言っている。


 けれど、陽翔の胸の奥には、どこか引っかかるものが残った。


 由愛の視線は、去っていく美咲を追いかけていた——まるで、何かを言いたそうに。


(……こいつ、本当に大丈夫なのか?)


 そんな疑問が、陽翔の心の中に、静かに広がっていった。

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