青嶺大学編・第52話 約束の日
青嶺大学編・第52話 約束の日
試験期間が明けた週末。空は高く澄みわたり、木々はすっかり紅葉していた。
陽翔と由愛は、駅前から少し離れた丘の上にある自然公園に来ていた。ここは、高校時代にも何度か訪れた思い出の場所だったが、大学に入ってからは初めてだった。
ふたり並んで、ゆっくりと坂道を歩く。足元では、枯れ葉がくしゃ、とやさしく鳴いた。
「やっと終わったね、試験」
由愛がぽつりとつぶやくと、陽翔が頷いた。
「ほんと、今回は地味に詰め込むのしんどかった。……でも、由愛と図書館で勉強したとこ、けっこう出た気がする」
「私も。……一緒にやってよかった。ありがとうね」
ふたりの歩幅が、自然と重なる。
視線を上げると、木々の間から遠く町並みが見えた。赤や橙に染まった街が、夕方の陽に照らされて柔らかくきらめいている。
展望台のベンチに腰を下ろすと、風が頬を撫でていった。少し冷たい風だったけれど、それも心地よかった。
「ねえ、陽翔」
「うん?」
「私、あのとき――ほら、文芸サークルの原稿読んで、いろいろ気づいたって言ったでしょ? あのあとね、すごく不安だったの。自分がどうしたいのか、陽翔とちゃんと向き合えてたのかも、わからなくて」
由愛は言葉を選ぶように、一呼吸おいてから続けた。
「でも、試験前に一緒に過ごして、話して、なにか……ちゃんと陽翔の隣に戻ってこれたって、思ったんだ。ううん、戻してもらった、かも」
陽翔は黙って耳を傾けていた。風が吹くたび、由愛の髪がふわりと揺れて、その横顔が夕陽に染まっていく。
「ありがとう。……やっぱり私、陽翔のこと、すごく好きだよ」
その言葉に、陽翔は少し照れたように目を細めた。
「……俺も、同じ気持ちだったよ。自分のことばっかになってて、ごめんな。でも、またこうして隣にいてくれるの、嬉しい」
言葉のあと、ふたりはふっと笑った。
手を伸ばすと、そっと繋がった指先。同じ温度がそこにあった。
静かな時間が流れる。けれどその沈黙は、満たされたものだった。
夕焼け空が少しずつ群青に染まりはじめる中、ふたりは肩を並べたまま、遠くの灯りを見つめていた。
「……ねえ陽翔。来週の『子どもフェスタ』、一緒に準備手伝ってくれる?」
「もちろん。楽しそうだし。……それに、由愛がいるなら、もっと楽しい」
その声に、由愛は小さく笑った。
秋は深まり、次の季節の足音が少しずつ近づいている。
けれど、ふたりの時間は今、確かにそこにあった。




