21.距離の変化
21.距離の変化
翌朝。
教室に入ると、いつも通りの景色が広がっていた。
窓際の席、にぎやかなクラスメイトたち、黒板の前で話す先生——何も変わらない日常。
けれど、陽翔の中では確実に何かが変わっていた。
(……橘の顔、まともに見れん)
昨日の夜、自分の気持ちを認めてしまったせいか、由愛に会うのが少しだけ気恥ずかしい。
ただのクラスメイトとして接していたはずなのに、それができなくなりそうで怖かった。
(いやいや、今まで通りでいいだろ。変に意識したら余計に怪しまれるし)
そんなことを考えながら席に着こうとした瞬間——。
「おはよ、藤崎くん」
「っ!」
由愛がいつもと変わらない笑顔で話しかけてきた。
「お、おう……」
驚きを隠せず、ぎこちない返事をしてしまう。
(落ち着け、俺……普通にしろ)
「どうしたの?」
「え、な、なんでもねぇよ」
「……ふーん?」
じっとこちらを見つめる由愛。
その視線が妙に鋭く感じられて、陽翔は思わず目をそらした。
(やばい、バレる……!)
しかし、由愛はそれ以上何かを言うこともなく、席に着いた。
(……セーフ?)
少し安心したのも束の間、隣から由愛の声が聞こえてくる。
「ねえ、藤崎くん」
「ん?」
「今日、放課後空いてる?」
「えっ?」
「ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「またかよ……」
「ダメ?」
「いや、ダメってわけじゃねぇけど……」
「じゃあ決まりね」
由愛は満足そうに微笑む。
(……また振り回される予感しかしねぇ)
でも、嫌じゃない。
むしろ、彼女に誘われることが嬉しいと感じている自分がいた。
そして、その「嬉しい」という感情を、もう無視することはできなかった。
——俺は、橘由愛が好きだ。
その想いを抱えたまま、放課後が来るのを、陽翔は静かに待っていた。




