青嶺大学編・第49話 ボランティア体験談報告会
青嶺大学編・第49話 ボランティア体験談報告会
十月末。木々が色づき始めた青嶺大学のキャンパスに、少し肌寒い風が吹き抜ける。
午後、教育学部の大講義室では「ボランティア体験談報告会」が行われていた。地域の保育園や小学校、高齢者施設などでボランティア活動を行った学生たちが、それぞれの経験をスライドや口頭で共有し合う、年に一度の恒例行事だ。
壇上に立つのは、サークル「クローバー」の代表、中原先輩。その隣には、マイクを手にした陽翔の姿があった。
(正直、こういう人前で話すの、まだちょっと緊張する……)
陽翔は深呼吸しながら、プロジェクターに映された写真を見た。あの小学校での特別授業の様子。子どもたちが手を挙げたり、笑ったり、少し照れくさそうに話しかけてきたりした、あの瞬間が鮮明に甦る。
「……最初は、自分に“先生っぽいこと”ができるのか不安でした。でも、子どもたちの一つひとつの反応が、自分の言葉や態度にちゃんと応えてくれるとわかったとき、初めて“伝えること”の意味を感じた気がしました」
陽翔の声は、最初こそ硬かったが、次第に自分の言葉で語り始めるにつれて、どこか温かみを帯びてきた。
客席の中ほどで、由愛はその様子を見つめていた。膝の上で手を組み、息をひそめるように。
(……ちゃんと、前に進んでる)
春、うまく話せなかったと言っていた陽翔が、今こうして人前で、自分の気持ちを言葉にしている。それだけで胸が熱くなった。
発表が終わり、会場に拍手が広がる。
その後、由愛も自分の体験を報告した。絵本の読み聞かせ、子どもたちの感情の色を引き出すワークショップ――そして、最後に語ったのは、ある女の子とのふれあいだった。
「“さびしい”って言ってくれたあの子の言葉を、ちゃんと受け止めたかった。大人になるって、子どもの心に気づける力なんだと思います」
由愛の声には、揺るぎない優しさと決意があった。陽翔は、壇上からそれを見つめていた。彼女がいつも大切にしている「誰かに寄り添う強さ」が、まっすぐに伝わってきた。
報告会のあと。夕暮れの中庭。人の流れがまばらになる中、二人は自然と並んで歩いていた。
「……すごかったよ、陽翔の発表」
「いや、そっちこそ。由愛、すごくよかった。……伝わってた、ちゃんと」
言葉が少し照れくさくて、でもその分だけ本気だった。
「なんかね……今日、陽翔の話を聞いてて思ったの。わたし、ちゃんと隣にいたいって。これからも、一緒に悩んだり、喜んだりしたいなって」
立ち止まって、由愛がまっすぐ陽翔を見つめた。風が、落ち葉を揺らす。
陽翔は、静かに頷いた。少しだけ照れくさそうに笑って。
「うん。俺も……そう思ってた」
その距離は、もう前みたいに遠くない。言葉で確かめたぶんだけ、心の距離もそっと近づいていた。
秋の深まりとともに、ふたりの関係もまた、少しだけ大人になっていくのだった。




