18.気づきたくない気持ち
18.気づきたくない気持ち
「ねえ、藤崎くん」
ゲームセンターを出て、夕暮れの街を歩く。
由愛は、陽翔が取ったぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「ん?」
「今日は、ありがとう」
「いや、大したことしてないし」
「でも、嬉しかったよ」
そう言って微笑む由愛の顔を見て、陽翔はまた心臓が跳ねるのを感じた。
(くそ……まただ)
最近、何度こういう瞬間があっただろう。
彼女の笑顔を見るたび、言葉をかけられるたび、心がざわつく。
「ねえ、藤崎くんって、誰か好きな人いるの?」
「——は?」
突然の質問に、陽翔は思わず立ち止まった。
「ど、どうしたんだよ、急に」
「なんとなく気になっただけ」
「……いや、いないけど」
「そっか」
由愛は、それ以上何も言わなかった。
だけど、なんとなく寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「橘は?」
「え?」
「お前こそ、好きなやついるのかよ」
「……」
由愛は、少し考えるように視線をそらした。
「秘密」
「……は?」
「ふふっ、藤崎くんにだけは教えない」
「なんだそれ」
「どうしても知りたいなら……」
由愛は陽翔の顔を覗き込むように、少しだけ体を寄せた。
「ちゃんと、私のこともっと知ろうとして?」
「っ……!」
近い。
由愛の顔が近すぎる。
夕焼けに染まった彼女の瞳は、どこか楽しげで、それでいて試すような色を帯びている。
(やばい……)
心臓の音がうるさい。
由愛に聞こえてしまうんじゃないかと、焦る。
「……冗談だよ」
由愛はふっと離れて、笑った。
「そんなに焦らなくても、いつか教えてあげるかも」
「……お前、ほんと意地悪だよな」
「よく言われる」
そう言って、彼女はまた歩き出す。
陽翔は、大きく息を吐いた。
(なんだよ、あれ……)
冗談——そう言われたけど、どこか本気のような気もした。
けれど、それを深く考えるのが怖い。
由愛のことを、今まで通り「ただのクラスメイト」と思っていたいのに——。
(俺、どうしたいんだ……)
自分の気持ちが、分からない。
いや、本当は分かっているのに、それを認めたくないだけなのかもしれない。
由愛といると、心が揺れる。
それが“好き”という気持ちなのかどうか——まだ、答えは出せなかった。




