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あおはる  作者: 米糠
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青嶺大学編・第3話 「迷いの先にある出会い」 

青嶺大学編・第3話 「迷いの先にある出会い」 



 昼休みを終えて、それぞれの午後の講義へと向かっていった陽翔と由愛。

 まだ始まったばかりの大学生活。そこには“分かれ道”がたくさんあって、それでもどこかでまた重なっていく。


 ──数日後。週末を前にした金曜日の午後。


 青嶺大学の広場には、春恒例の「サークル紹介ブース」が並んでいた。

 芝生の上に立ち並ぶテントや看板、手書きのポスター、手作りの飾りつけ。

 それぞれのサークルが、新入生の目を惹こうと必死に呼びかけていた。


「よかったら見ていってください! 子どもと関わる活動、興味ある方はぜひ!」


 元気な声に、由愛が足を止めた。


 ──「教育ボランティアサークル クローバー」


 テーブルの上には、活動風景を収めた写真や、手作りの絵本が並んでいる。

 子どもたちと笑い合う先輩たちの写真を見て、由愛の胸が小さく震えた。


(こういう場所、好きかもしれない……)


 ふと、隣から声がした。


「もしよかったら、活動の説明、聞いてみます?」


 由愛が顔を上げると、そこには落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。

 ──宮田麗香先輩。サークルの副代表を務める三年生だ。


 由愛は思わず頷いていた。

 言葉のひとつひとつに誠実さが感じられて、自然と惹き込まれていく。


 話を聞いていると、もう一つの声がした。


「──あれ、由愛?」


 振り向くと、今度は陽翔が立っていた。


「もしかして、ここ見てた?」


「うん……なんとなく、気になって」


「俺もちょうど……どんなとこかなって」


 またしても偶然の再会。いや、もしかしたら“必然”だったのかもしれない。


 ふたりは並んで、宮田先輩の話に耳を傾けた。

 週に一度のミーティング、小学校や福祉施設での読み聞かせ、遊びの支援──

 そこには、机の上の勉強だけでは得られない、温かな現場があった。


 話の途中で、別の先輩が合流する。


「お、宮田さん、新入生かな? よろしく〜」


 朗らかな笑顔を向けたその人──中原啓介先輩は、サークルの代表を務める三年生。

 落ち着いた口調と穏やかな物腰に、陽翔は思わず姿勢を正した。


 中原先輩は、陽翔の目を見て言った。


「……君、将来は先生を目指してるんだよね? 子どもと関わる力って、今のうちから磨けるよ」


 言葉は軽やかだったが、芯がある。

 陽翔の胸の奥で、小さな炎がともるのを感じた。


「……見学、してみたいです」


「私も……お願いします」


 ふたりの声が重なり、目を合わせて小さく笑い合った。


 まだ何も分からない。けれど、一歩踏み出せた。

 ここから、きっと何かが始まる──そんな予感が、確かにあった。


 春の陽射しが、芝生に立つふたりの影を、少しずつ長く伸ばしていた。

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