16.「もっと知りたい」の意味
16.「もっと知りたい」の意味
屋上での会話が終わり、昼休みが終わる頃には陽翔の胸のざわつきも少し落ち着いていた。
(焦らなくていい——か)
由愛の言葉は不思議と優しくて、彼女の方がずっと大人びて見えた。
それなのに「藤崎くんのこと、もっと知りたい」なんて言われてしまって、逆に自分が子供っぽく感じてしまう。
(俺も……橘のこと、もっと知りたい)
でも、その「知りたい」という気持ちの正体が何なのか、まだ分からない。
それが友情なのか、それとも恋愛感情なのか——。
そんなことを考えながら、午後の授業をぼんやりと過ごしていた。
◇◆◇
放課後、陽翔は机の上でぼんやりしていた。
「……藤崎?」
ふいに、隣から由愛の声が聞こえた。
「おーい、藤崎くん?」
「あ、ああ、悪い。ちょっと考えごとしてた」
「珍しいね、そんな顔するなんて」
「……そうか?」
「うん。何か悩みごと?」
陽翔は一瞬、由愛を見た。
「……橘ってさ」
「うん?」
「俺のこと、なんで気にかけてくれるんだ?」
由愛は一瞬、驚いたように目を瞬かせた。
「……それ、逆に聞いてもいい?」
「え?」
「藤崎くんは、私のこと気にしてる?」
「……っ」
思わず言葉に詰まる。
(それは……気にしてるに決まってる)
今日一日、ずっと彼女のことを考えていた。
隣に座っているだけで意識するし、ふとした笑顔に心が跳ねる。
でも、それが何なのか自分で分かっていないから、素直に「気にしてる」と言えない。
すると、由愛は小さく笑った。
「……藤崎くんって、ほんと鈍感だよね」
「え、なんで?」
「ふふっ、なんでもない」
そう言って、彼女はカバンを持ち上げた。
「ねえ、藤崎くん」
「ん?」
「今日は、寄り道しない?」
「え?」
「昨日はカフェだったし……今日は別のところ行こうよ」
「……また二人で?」
「うん」
陽翔は一瞬迷ったが、すぐに頷いた。
「……いいけど、どこ行くんだ?」
由愛は少し考えてから、いたずらっぽく微笑んだ。
「藤崎くんの行きたいところに付き合うよ」
「俺の?」
「うん。ほら、私のこと“もっと知りたい”んでしょ?」
「……っ!」
さっきの自分の気持ちを言い当てられたような気がして、陽翔はドキッとする。
(こいつ、俺よりも俺のこと分かってるんじゃないか……?)
由愛の笑顔を見ながら、陽翔は改めて思った。
——もっと知りたい。
それは、ただの好奇心じゃない。
彼女のことを知ることで、自分が何を感じるのか確かめたかった。
「……じゃあ、ちょっと歩こうか」
「うん」
こうして、二人はまた一緒に帰ることになった。




