161.夏の夜道、重なる未来
161.夏の夜道、重なる未来
祭りの喧騒を背に、ふたりはゆっくりと歩き出した。
夜風が少し涼しくて、蝉の鳴き声が遠くに溶けていく。足元には、月明かりと提灯の残光が重なって、長く柔らかな影をつくっていた。
陽翔と由愛の手は、自然に繋がれている。指先が、ずっと前からそうだったみたいに、優しく絡み合っていた。
「……奏音ちゃん、勇気出したね」
由愛がぽつりとつぶやく。
「ああ。あれは、すごいと思った。ちゃんと想いを言葉にするのって、簡単じゃないしさ」
陽翔も頷きながら、空を見上げた。星が、滲むように瞬いている。
「なんか……自分たちも、もう三年なんだなって。今日、あらためて思ったよ」
「うん……受験のこと、卒業のこと、それから――その先のこと」
言葉の“その先”には、きっとふたりとも、同じものを浮かべていた。
「ねえ、陽翔くん」
「ん?」
由愛は足を止めて、そっと彼の顔を見上げた。祭り帰りの浴衣が、夜風にふわりと揺れる。
「今のままでいたいなって、思うことある。でも……同じくらい、“変わっていくこと”も、受け止めていきたい。陽翔くんと一緒に」
その声は小さかったけれど、揺るぎない意志があった。
陽翔は驚いたように瞬きをして、そしてゆっくりと微笑んだ。
「俺も、そう思ってた」
ぎゅっと、手に力がこもる。
「たぶんさ、何かを選ぶって、いつか誰かを傷つけたり、自分も迷ったりする。でも、ちゃんと向き合って、自分の足で進んでいきたい。……由愛と、ずっと一緒にいたいから」
由愛は少しだけ目を伏せて、それから静かに頷いた。
――この人となら、大丈夫。
その確信は、ことば以上に、手のぬくもりから伝わってきた。
遠くで花火が上がった。空に咲いた光が、ふたりの影を照らし、またすぐに闇へと溶けていった。
けれど、手のぬくもりだけは、ずっとそこにあった。




