157.打ち明けられた選べない想い
157.打ち明けられた選べない想い
週が明けた放課後。図書室の窓際に、由愛は奏音の姿を見つけた。
静かに本を読んでいるふりをしていたけれど、その視線はページの上ではなく、遠くの何かを見ていた。
「長谷川さん……ちょっといいかな?」
声をかけると、奏音はハッとした顔で顔を上げた。そして、由愛がにこやかに立っているのを見て、少し驚いたように瞬きをする。
「……橘さん?」
「今日ね、ちょっと話せたらなって思って」
由愛は隣の椅子に腰を下ろし、鞄を膝の上に置いた。
「この前……陽翔と話してたでしょ? 気になってたの。あのときの顔、ちょっと元気なかったから」
奏音はしばらく黙っていたけれど、やがてゆっくりとうつむいて、小さく息を吐いた。
「……ごめんね。あのとき、迷ってて。誰かに相談したかったの。でも……橘さんに不安にさせるようなこと、しちゃったよね」
「ううん、大丈夫。私たち、ちゃんと話してるから。だから……よかったら、聞かせてくれない?」
その優しい問いかけに、奏音は少しずつ言葉を紡ぎ出した。
「私、小さい頃からずっと仲良しだった幼馴染がふたりいて……伊織と蓮司っていうんだけど。どっちも、本当に大事な存在で。なのに、ふたりとも、私のことを好きだって言ってくれて……」
「……ふたりとも?」
「うん。でもね、ふたりは親友同士なの。私をめぐって関係が壊れるのを見たくないって……ふたりとも、同じことを言った」
奏音の声が震える。由愛はそっと彼女の手に自分の手を添えた。
「伊織はね、明るくて、引っ張ってくれる人。蓮司は穏やかで、気持ちを静かに受け止めてくれる。……どっちも違ってて、でも……どっちも好き。選べないの。どっちかを選ぶってことは、もう一人を失うことになる気がして」
その言葉に、由愛は少し目を伏せた。
「……怖いんだね。誰かを選ぶことで、大切な何かを壊してしまうかもしれないって」
「……うん」
由愛は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「私もね、陽翔と付き合う前は、似たようなことで悩んだことあったよ。……友達のままでいれば、きっと何も壊れない。でも、そのままじゃ、自分の気持ちに嘘をつくことになるって思った」
「……橘さんは、怖くなかった?」
「怖かったよ。でもね、陽翔の気持ちをちゃんと聞いて、それでも選んでくれたことが、私の中の不安をひとつずつ消してくれたの。……だから、奏音ちゃんも、無理に決めるんじゃなくて、まずは自分の気持ちに正直になってみてほしい」
奏音はじっと由愛の目を見つめた。そこには、迷いを抱えながらも誰かを真っすぐに想おうとする、同じような温度が宿っていた。
「……私、自分がどうしたいか、ちゃんと考えてみる。逃げずに。ありがとう、橘さん」
「ううん、応援してるから。もしまた迷ったら……私じゃなくても、陽翔にでも、話してね」
「……うん」
夕方の図書室。窓から差し込む陽の光が、ふたりの手を照らしていた。




