147.変わっていく季節、変わらない気持ち
147.変わっていく季節、変わらない気持ち
三月が近づき、卒業式の練習や進路調査票の提出など、学校にはどこか慌ただしい空気が漂い始めていた。
陽翔は教室の窓際の席から、校庭に立ち並ぶまだ葉をつけない桜の木々をぼんやりと眺めていた。冷たい風が吹き抜けては、どこか遠くへと去っていく。
(来年の今頃、俺たちもこの制服を脱ぐのか)
ふとそんな思いが胸をよぎる。
未来は確かに近づいている。だけど、それは同時に、何かを失うような感覚も連れてくる。
「……ねえ、陽翔くん」
放課後、昇降口で靴を履き替えていた陽翔の背に、由愛の声が届く。
「今日、ちょっとだけ寄り道しない?」
向かったのは、近くの河川敷。春には桜が咲き誇るあの並木道も、今はまだ冬のまま。でも、その静けさが、ふたりにはちょうどよかった。
「ねえ……来年、どうしてると思う?」
由愛がぽつりと呟く。
「大学生になって、別々のキャンパスで、それぞれの夢に向かって……」
そこまで言いかけて、ふと、足元の石を蹴るように視線を落とした。
「……ちょっとだけ、怖いの。変わっちゃうんじゃないかって」
陽翔はその言葉に、正直に頷いた。
「俺も、同じこと思ってた。……でもさ、変わることって、悪いことばかりじゃないよな」
由愛が顔を上げる。
「一緒にいることで、変われたって思ってる。いい方向に。……自分のことも、将来のことも、ちゃんと考えようって思えたの、由愛のおかげなんだ」
夕焼けが、河川敷の水面を静かに染めていく。
由愛はそっと陽翔の袖をつかみ、優しく笑った。
「……うん。だったら、変わってもいいね。私たちがちゃんと、大事なものを持ったまま、前に進めるなら」
ふたりの影が、夕陽に重なる。
春は、もうそこまで来ていた。




