145.ふたりの朝、続く日常の中で
145.ふたりの朝、続く日常の中で
翌朝。まだ冷たい風が吹くニ月の通学路を、陽翔はいつもよりほんの少しだけ早足で歩いていた。
スマホの画面を何度も確認しては、由愛からの返信を思い出す。
『読んだよ。嬉しかった。私もね、陽翔くんがいてくれるから、頑張れてるの。ありがとう』
短いけど、まっすぐで、優しい言葉。
(会ったら、ちゃんと伝えよう)
校門をくぐって昇降口に向かう途中、見慣れた後ろ姿を見つける。
まだ少し寝癖の残る髪、マフラーの巻き方のクセ、肩にかけたバッグの位置。間違えるわけがない。
「……由愛」
声をかけると、彼女はくるりと振り返った。
顔を合わせた瞬間、お互い、少しだけ照れたように目をそらす。
「おはよう、陽翔くん」
「……おはよう。チョコ、ほんと美味しかった。ありがとう」
その一言に、由愛の頬がふわっと赤く染まる。
「うん……よかった。ちゃんと気持ち、込めたから」
何気ないようで、特別なやり取り。
周りのざわめきが、遠く感じるほど、ふたりだけの時間が流れていた。
教室に入ってからも、何度か目が合うたびに、お互いどこか照れて笑う。
それでも、その笑顔の奥には、確かな信頼と、深まった気持ちが宿っていた。
授業が始まっても、ノートの隅には無意識に書いた「由愛」の文字。
隣のクラスの彼女のことを考えるたび、心が少しあたたかくなる。
日常は何も変わらずに流れていくけれど——
その中で、ふたりの関係は確かに、一歩ずつ進んでいる。




