13.再会の朝
13.再会の朝
翌朝、陽翔はいつも通りの時間に家を出た。
けれど——。
(なんか、気が重い……)
昨日のカフェでの出来事が頭から離れない。
由愛の「私のこと、好きになった?」という言葉。
そして、それを聞いたときの自分の反応。
(……マジで意識しすぎだろ、俺)
自分に言い聞かせても、胸のざわつきは消えない。
駅に向かう途中、ふとスマホを取り出す。
何かメッセージが来ているわけでもないのに、つい由愛とのトーク画面を開いてしまう。
(……いやいや、何やってんだ俺)
軽く頭を振って、スマホをポケットにしまう。
すると——。
「おはよう、藤崎くん」
不意に聞こえた声に、陽翔は驚いて顔を上げた。
「た、橘……!?」
そこにいたのは、昨日と変わらない落ち着いた表情の由愛だった。
「どうしたの? そんな驚いた顔して」
「いや……」
(やべえ、意識したせいでまともに顔見れねえ)
少し目をそらしながら歩き出すと、由愛は隣に並んできた。
「電車、いつもこの時間?」
「まあな……橘も?」
「ううん。今日はちょっと早めに出てきただけ」
「そっか……」
(ってことは、もしかして……俺を待ってた?)
そんなはずはない、と思いつつも、余計にドキドキしてしまう。
それを悟られないように、陽翔はわざと話題を変えた。
「昨日さ、帰ったあと、家族にカフェ行ったこと言ったの?」
「んーん、言ってないよ」
「そうなのか?」
「うん。別に、わざわざ言うことでもないし」
由愛はさらっと答える。
でも、その言葉がなぜか妙に引っかかった。
(俺と一緒にいたの、家族にも言わないのか……)
もちろん、それが普通なのかもしれない。
けれど、どこか寂しさのようなものを感じたのも確かだった。
——けれど、その直後。
「……藤崎くんは、昨日のこと誰かに言った?」
「え? いや、言ってないけど」
「そっか、よかった」
「……?」
「なんでもない」
由愛は、ほんの少し嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、陽翔の中で何かが確信に変わった。
(……これ、俺、マジで由愛のこと好きになりかけてる)
まだ「好き」だとはっきり言えるわけじゃない。
でも、確実に彼女のことを特別に感じている。
ただのクラスメイトではなくなってしまった関係。
でも、これが「恋」なのかどうかは、まだ分からない。
だからこそ——。
(もう少し、この気持ちの正体を確かめたい)
そう思いながら、陽翔は静かに息を整えた。
そして、二人は並んで電車に乗り込む。
いつもと同じはずの朝。
けれど、昨日までとは確実に違う何かが、二人の間に流れていた。




