138.未来を描く、その途中で
138.未来を描く、その途中で
秋が深まり、期末テストや進路希望調査の話題がクラスでもちらほらと出始めた。
放課後の教室。机に肘をついて窓の外を眺めていた陽翔は、ふと手元の進路資料に目を落とした。
(大学か……)
選択肢は無限にあるようで、どれも現実味に欠けている。
得意な科目は数学。でも、それをどう生かせばいいのかは、まだ見えてこない。
そんなふうに思いながら、ため息をついたそのとき。
「おまたせ、陽翔くん」
教室のドアから由愛が顔をのぞかせた。放課後に一緒に図書館に行く約束をしていたのだ。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
鞄を手に立ち上がり、彼女と並んで廊下を歩く。
「……ねえ、将来のこと、考えたりする?」
唐突な陽翔の問いに、由愛は少しだけ驚いたように目を瞬かせた。
「うん。考えるよ。……でも、怖くなることもある」
「怖い?」
「だって、夢って、“叶うかもしれない”って思うほど、届かなかったらどうしようって不安も大きくなるでしょ?」
由愛は、静かに微笑みながら続けた。
「でもね、だからこそ“今”が大事なんだって思う。陽翔くんと一緒にいる時間とか、自分が何を感じてるのかとか。全部、大事にしたいなって」
その言葉は、やさしくて、あたたかかった。
図書館までの道のり、ふたりは他愛ない話をしながら歩いた。進路のことも、将来の不安も、一緒にいれば少しだけ軽くなる気がした。
——
図書館の帰り道、夕焼けが街をオレンジに染める。
「……俺さ」
ふと陽翔が言った。
「将来、何になりたいかはまだわかんないけど。……どんな道に進んでも、隣に由愛がいてくれたら、頑張れる気がする」
その言葉に、由愛は立ち止まる。
沈黙の中で、少しだけ目を潤ませて、そして——
「……ずるいなあ、もう」
笑って、陽翔の手をそっと握る。
「ずっと隣にいるって決めたから。夢のことも、未来のことも、一緒に考えていこうね」
秋の風が、ふたりの髪をやさしく揺らしていく。




