135.開演前、君の背中
135.開演前、君の背中
文化祭当日の午前。
中庭に設けられた特設ステージの前には、すでに多くの生徒や保護者が集まりはじめていた。
バンド演奏、ダンス発表、演劇。プログラムは盛りだくさんで、どこも賑やかな雰囲気に包まれている。
そんな中、校舎裏の音楽室では、由愛が深呼吸を繰り返していた。
鏡に映る自分の姿。制服に身を包みながら、右手には譜面を握りしめている。
ふと、扉がノックされた。
「……陽翔くん?」
小さく返事をすると、そっと扉が開いて、陽翔が顔をのぞかせた。
「やっぱりここだった。……もうすぐ出番、だよね」
由愛は、ぎこちなく笑ってみせる。
「うん。……心臓、爆発しそう」
陽翔は静かに彼女のそばへ歩き、手を差し出した。
「大丈夫。ちゃんと届くよ。由愛の声も、想いも」
その言葉に、由愛はそっと陽翔の手を握る。
その温もりが、胸の奥に沁みわたっていく。
「ねえ、陽翔くん。覚えてる? 去年の文化祭のとき」
「もちろん。初めて君がステージに立った、あの日」
「……あのとき、私は陽翔くんに支えられてた。だから、今日も……」
一瞬、言葉が詰まる。だが、由愛はしっかりと前を向いた。
「——だから今日は、陽翔くんに、ちゃんと“ひとりで”見せたい。私の歌を、私の気持ちを」
陽翔は、少し目を見開いた後、柔らかく頷いた。
「……わかった。客席で待ってる。俺、絶対に目をそらさないから」
由愛は微笑みながら、ゆっくりと頷いた。
ステージ袖へと向かうその背中を、陽翔はしばらく見つめていた。
その背中は、小さくて、でも確かに——強く、美しかった。
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