124.揺れる道、重なる想い
124.揺れる道、重なる想い
五月初旬、爽やかな風が校舎を吹き抜ける。
二年生になって最初の行事は、恒例の“春の遠足”だった。今年の行き先は、郊外の大きな自然公園。木々に囲まれたハイキングコースと広々とした芝生広場が名物で、生徒たちはグループに分かれて自由行動を楽しめる。
「ねぇねぇ、由愛ちゃんと陽翔くん、一緒にまわるんでしょ?」
朝の集合時、クラスメイトの女子たちがニヤニヤとしながら声をかけてくる。
由愛は少しだけ照れながら、それでもしっかりと答えた。
「うん。……一緒に歩くよ」
隣で陽翔も、少し恥ずかしそうに頷く。周囲のからかいに肩をすくめながらも、どこか誇らしげな笑みが浮かんでいた。
──
午前中のハイキングが終わり、昼食の時間。
由愛と陽翔は、大きな木の根元にレジャーシートを広げて、ふたりだけの空間を作っていた。手作りのサンドイッチを半分こしながら、春の空を見上げる。
「ねえ、陽翔くん」
「ん?」
「今日ね、朝にお姉ちゃんからメッセージが来たの。『ちゃんと高校生活楽しんでる?』って」
「そっか……」
真帆。由愛の姉であり、彼女にとって一番の壁でもあった存在。
「最近、ちょっとだけ話すようになったんだ。大学生活の話とか、趣味のこととか……前みたいな、気まずさは減ってきたかも」
「それって、いいことだよな」
陽翔はサンドイッチを口に運びながら、優しく言った。
「うん。私ね、たぶん……陽翔くんが、ちゃんと受け止めてくれたから、前に進めたんだと思う」
ぽつりとそう呟く彼女の横顔は、春の木漏れ日に照らされて、穏やかに輝いていた。
──
その夜、陽翔は帰宅後、自分の部屋のベッドに倒れ込んでいた。
静かな部屋。カーテンの隙間から差し込む夕方の光が、机の上のノートに影を落としている。
「……春って、ちょっと眩しいな」
小さく呟いた陽翔は、引き出しの奥から写真を取り出した。それは、小学生のころに撮った家族写真。今は別居している父親の姿も写っている。
(お父さんは、今どこで何してるんだろう)
陽翔の家は、数年前に両親が離婚して以来、母親とふたり暮らし。表立って悩みを見せることはなかったが、家の中はどこか“静かすぎる”空間だった。
由愛と向き合う中で、自分の過去とも少しずつ向き合っていかなければいけない。そう感じていた。
(俺も、変わっていかないと)
彼は静かに、机に向かい直した。




