114.春風にのせて
114.春風にのせて
春休みも残り数日となったある午後。
ぽかぽかとした陽気の中、陽翔と由愛は川沿いの遊歩道を並んで歩いていた。冬の寒さが嘘のように和らぎ、木々のつぼみがふくらみ始めている。
「もうすぐ二年生だね」
「うん……なんか、早かった気がする。いろいろあったけど」
「文化祭とか、クリスマスとか……初詣も一緒に行ったし。バレンタインも」
「こら、それは言わないの。恥ずかしいから」
由愛は頬を赤らめ、陽翔の腕を軽く小突いた。陽翔は笑いながらその腕を取り、そっと指を絡める。
「でも、本当にいろいろあったよな」
「……ねぇ、陽翔くん」
「ん?」
「二年になって、クラス替えあるじゃない? 一緒のクラスじゃなかったら……どうする?」
由愛の声には、どこか不安の色が滲んでいた。
陽翔は少しだけ立ち止まり、由愛の方を向く。
「そしたら……そしたら、もっと会いに行くよ」
「え?」
「今までより、もっと。毎朝教室まで迎えに行って、昼休みは中庭でお弁当食べて、放課後は一緒に帰って……。クラスが違う分、全部埋め合わせする」
「……バカみたい」
そう言いながら、由愛は少し潤んだ目で笑った。
「……でも、ありがとう。そういうの、ちゃんと言ってくれるのが、すごく嬉しいの」
そのまま、ふたりは並んで川沿いを歩き続けた。
まだ制服には袖を通していないのに、春がもうすぐそこに来ていることを感じる。
少し先の道端に、小さな桜のつぼみが開き始めていた。
「……ねぇ」
「ん?」
「二年生でも、その先でも……ずっと隣にいてね」
「もちろん」
陽翔は、由愛の手をもう少しだけ強く握った。
それは、恋人としてだけじゃなく——
互いに一歩ずつ、支え合って未来へ進む“ふたり”としての約束だった。




