10.揺れる気持ち
10.揺れる気持ち
陽翔は、手に持ったカフェラテのカップをぼんやりと眺めていた。
けれど、頭の中ではずっと由愛の言葉が反芻している。
——「藤崎くんと話してるとね、なんか、自然でいられる」
彼女は、ごく当たり前のことのようにそう言った。
でも、その言葉の重みが、なぜか胸の奥にじんわりと染み込んでくる。
(……俺、今すげぇドキドキしてる)
たぶん、これは緊張とは違う。
けれど、なんなのかは分からない。
視線を上げると、由愛がこちらを見ていた。
「藤崎くん?」
「え、あ、いや……」
目が合うと、余計に鼓動が速くなる。
昨日までは普通に話していたのに、今はまるで違う。
(俺、意識しすぎじゃないか?)
でも、意識せずにはいられない。
彼女の仕草、言葉、表情——。
一つひとつが、心を揺さぶってくる。
「……さっきの話だけどさ」
「うん?」
「俺は、橘のこと……怖いとか思ったことないぞ」
「……ふふっ、知ってる」
由愛は小さく笑った。
「だから、藤崎くんといると楽なんだよ」
「楽?」
「うん。なんだろうね……君と話してると、妙に落ち着くというか」
そう言いながら、由愛はストローをくるくると回した。
「……あんまり言いたくなかったけど、私、人に期待されるのって、ちょっと苦手なんだ」
「期待?」
「『橘由愛はこういう子だ』って、周りが勝手に決めるの」
「……なるほど」
彼女がさっき言っていたことが、ようやく腑に落ちた。
美人で、成績優秀で、クールな完璧女子——
そんなイメージを持たれるのが、由愛にとっては息苦しかったんだ。
「だから、私は……君みたいな人と話してると安心するのかも」
「……俺みたいな?」
「うん。変に気を遣わないし、遠慮もしないし……普通に接してくれるから」
(普通……か)
これまでの自分だったら、ただのクラスメイトとして流していたかもしれない。
けれど、今は違う。
「橘」
「ん?」
「……俺、橘のこと、もっと知りたくなった」
「……っ」
由愛の目が、わずかに見開かれる。
そして、数秒の沈黙のあと——。
「……ふーん」
彼女は、小さく微笑んだ。
「じゃあ、もっと仲良くしようか」
「え?」
「私のこと、知りたいんでしょ?」
「……まあ」
由愛は、その答えを聞くと、どこか満足そうにカップを口に運ぶ。
「じゃあ、これからもよろしくね、藤崎くん」
「……お、おう」
彼女はいつも通りの落ち着いた口調だったけど、
なぜかその言葉には、昨日までとは違う温かみがあった。
——この瞬間、陽翔ははっきりと気づいた。
自分の中で、橘由愛という存在が「特別」になり始めていることに。
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