108.少しのすれ違い
108.少しのすれ違い
冬休みも終わりが近づき、ふたりはどことなく名残惜しそうに過ごしていた。
そんなある日。
陽翔は、地元の友人たちとの新年会に誘われていた。中学時代のグループLINEで自然と話が進み、特に断る理由もなく参加を決めていた。
「今日、地元の奴らと新年会なんだ。夕方からだけど」
「うん、いいね。楽しんできて」
由愛は微笑んで言ったけれど、どこか引っかかるものが陽翔にはあった。
ほんの少し、声が沈んでいた気がした。
その夜——。
スマホを見ると、由愛からのメッセージが一件だけ。
《おつかれさま。もう帰った?》
時間は23時近く。
すぐに「今帰ってきたよ」と返信すると、由愛からは既読だけがついて返事はなかった。
(……やっぱ、ちょっと気にしてたのかな)
そう思って次の日、彼女を近くのカフェに誘った。
⸻
「昨日さ、由愛、ちょっと寂しかった?」
ストレートな問いかけに、由愛は少しだけ口を尖らせた。
「……別に。寂しいとか、そういうんじゃないよ。ただ……」
そこで言葉を切って、カップを両手で包み込む。
「……少しだけ、不安になる時があるんだよね。陽翔くんが、昔の友達と楽しそうにしてるのを見ると……なんだか、遠くなる気がして」
「遠くなんてならないよ」
陽翔は即座にそう答えた。
「俺は今、由愛が一番大事だよ。……でも、たまに会う友達とも笑える時間があるのは、ありがたいと思ってる」
由愛は、ふっと笑った。
「うん、そうだよね。ごめん、私ちょっとだけわがままだったかも」
「いや、嬉しいよ。そういうの、言ってくれるの」
陽翔は由愛の手に自分の手を重ねる。
「不安になったら、何でも言って。俺もちゃんと聞くし、ちゃんと話すから」
「……うん。私も、そうする」
ふたりの指がゆっくりと絡む。
ほんの小さなすれ違いも、言葉で確かめ合うことで、またひとつ絆になっていく——そんな午後だった。