105.久しぶりのふたりきり
105.久しぶりのふたりきり
冬の空気は澄んでいて、吐いた息が白く浮かび上がる。
土曜日の午後、駅前のカフェで待ち合わせた陽翔と由愛は、すでに手をつないで歩いていた。
「ねえ、なんか久しぶりだね。こうやって、ふたりきりで出かけるの」
「うん。最近は学校のことでバタバタしてたしな」
期末テスト、行事の準備、友人たちとの関わり。気がつけば、落ち着いてデートする時間がなかった。
だからこそ、今日は大切な一日だった。
「映画館、混んでるかな?」
「平日じゃないからな。でも……また一緒に観られるの、楽しみだ」
以前観た映画の話題で軽く笑い合いながら、陽翔はふと、繋いだ手を少し強く握った。
由愛もそれに気づいて、小さく頷く。
「……寒いのは嫌いだけど、こうして手が繋げるのは、冬のいいとこかもね」
「それ、ちょっとずるいな」
「ふふ、そう? でも、陽翔くんもまんざらじゃなさそうだけど」
会話の温度だけが、やたらとあたたかい。
映画の上映まではまだ少し時間がある。
二人はそのままショッピングモールをぶらつきながら、雑貨屋や本屋に立ち寄ったり、クリスマス仕様の装飾に目を輝かせたり——。
「これ、かわいい!」
由愛が手に取ったのは、ペアのマグカップ。雪の結晶模様があしらわれた、淡い水色と白の組み合わせ。
「……買っていく?」
「うん、いい?」
「もちろん」
こうして、何気ない一日がまた、ふたりだけの特別な思い出になっていく。
冬の午後、心も少しずつ、温まっていった——。




