104.少しだけ、強くなれた気がする
104.少しだけ、強くなれた気がする
月曜日の朝、教室の窓から差し込む冬の光が、静かに由愛の横顔を照らしていた。
席に座っている由愛の姿は、いつもと同じように見えるけれど、陽翔はなんとなく“違い”に気づいた。
まっすぐ前を見つめる瞳。肩にかかる髪を指先で整える仕草。そのどれもが、どこか芯の通ったように見えた。
(ちゃんと、話せたんだな)
昨日、送られてきたメッセージを思い出しながら、陽翔は静かに席に着く。
「おはよう、陽翔くん」
由愛がいつもより少しだけ明るい声で挨拶をする。
「ああ、おはよう。……顔色、いいな」
「ふふ、分かる? ちょっとだけ、すっきりしたんだ」
嬉しそうに笑うその表情に、陽翔もつられて笑みを返す。
「うん、なんか……前より強くなった感じする」
「え、それって褒めてる? からかってる?」
「褒めてるに決まってるだろ」
軽い冗談を交わしながらも、ふたりの間には穏やかな空気が流れていた。
休み時間、廊下を並んで歩いていると、クラスメイトの佐倉が陽翔に声をかけてきた。
「おーい陽翔、お前、日曜暇か? みんなでボウリング行こうって話になってさ」
「え、急だな……」
「たまには男子だけで盛り上がろうぜ!」
そう言われて陽翔が返事を迷っていると、由愛がふと、ほんの少しだけ寂しげな表情を浮かべた。
「行ってきなよ、楽しそうだし」
「……ん、まあ。でも、由愛は?」
「私は……その日、ちょっと家の用事で出かけるから、大丈夫」
少し強がったようなその笑顔に、陽翔は内心で「嘘だな」と思った。
——自分の時間を大切にしようとする由愛の新しい一歩。けれど、その裏でどこか、ちょっとした距離が生まれかけている気もする。
(……すれ違い、しないようにしなきゃ)
陽翔は思わず由愛の手を取った。
「……なに?」
「いや、今度さ。男子だけとかじゃなくて、ふたりで出かけない?」
「……え?」
「日曜の夜とかさ。駅前に新しいカフェできたんだろ。たまには、ふたりでちゃんとしたデートっぽいやつ、してみたいなって」
由愛は一瞬驚いた表情を見せたあと、すぐに柔らかく微笑んだ。
「うん、いいよ。……それ、楽しみにしてるね」
教室に戻る廊下。手と手が、また重なる。
由愛は、もう誰かの妹じゃなく、自分の足で歩こうとしている。
陽翔は、そんな彼女の隣に、ちゃんと並んでいたかった。




