表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あおはる  作者: 米糠
104/250

103.向き合う覚悟

 103.向き合う覚悟



 日曜日の朝、由愛は珍しく早く起きていた。


 まだ眠たげなリビングに降りると、すでに母が台所で支度をしていて、父は新聞を読みながらコーヒーを啜っていた。


 家の中に、どこかピリッとした空気が流れている。


 ——今日は親戚が集まる日。そして、真帆が帰ってくる。


(……大丈夫。ちゃんと話すって決めたんだから)


 そう心の中でつぶやきながら、自室に戻って着替えを始める。


 リビングに戻ると、見慣れたスーツケースが玄関に置かれていた。


「……あ」


 気づけば、そこに立っていたのは、姉・橘真帆だった。


 変わらない長い髪と凛とした立ち姿。けれど、その視線はどこか柔らかく、以前よりも少しだけ距離が近くなったように感じられた。


「おかえり、お姉ちゃん」


 由愛が小さく声をかけると、真帆は「ただいま」と微笑んだ。


 しばらくの間、親戚との談笑や食事の時間が続く。由愛も話に加わりながらも、時折真帆を意識してしまう。


(今だ。今話さなきゃ、また逃げる気がする)


 昼下がり、片付けのタイミングを見計らって、由愛は声をかけた。


「お姉ちゃん、ちょっとだけ時間もらってもいい?」


「うん。いいよ」


 ふたりで並んでベランダに出ると、冬の空気が肌を冷やした。隣に立つ真帆は、穏やかな表情のまま、空を見上げていた。


「……私、小さい頃からずっと、お姉ちゃんに追いつこうとしてた」


 静かな言葉で、由愛は話し出した。


「でも、どれだけ頑張っても、誰かが言うの。“真帆ちゃんの妹だからね”って。……そう言われるたびに、自分が消えてく気がしてたの」


 真帆は、何も言わずに耳を傾けていた。


「それが嫌で、一時は家族のことも、お姉ちゃんのことも避けてた。自分なんて、必要ないって思ってた時もあった。でも、今は——」


 由愛は、陽翔の顔を思い出す。


 手を握ってくれた温もりと、あのまっすぐな言葉。


「今は、自分のことも、少しずつ認められるようになってきたの。……だから、ちゃんと話したかった。お姉ちゃんと」


 しばしの沈黙のあと、真帆が静かに言葉を返す。


「……ごめんね。気づいてあげられなかった。ずっと“理想の姉”でいようとすることに必死で、由愛の本当の気持ちに気づけなかった」


 そして、由愛の頭を優しく撫でた。


「でもね、私はずっと——由愛のこと、すごいって思ってたよ。誰かのために笑って、頑張って、弱いところも隠さないでいられる……そんな由愛の方が、私にはまぶしかった」


 由愛の目に、涙が滲んだ。


「……ありがとう」


 ようやく、心からの言葉が交わされた瞬間だった。


 すれ違っていた姉妹の距離が、ほんの少し近づいたような、そんな午後。


 その夜、由愛は陽翔にメッセージを送った。


『ちゃんと話せたよ。ありがとう、陽翔くんのおかげ』


 すぐに返ってきた、短いけど温かい返信。


『偉かったな。おつかれさま』


 スマホの画面を見つめながら、由愛はそっと微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ